発電設備の熱媒体や、ガス漏れに気づくための着臭剤は、消防法の危険物にあたるのでしょうか。
溶接に使うアセチレンボンベの中に入っているアセトンは、どのように扱われるのでしょうか。
冷凍コンテナの断熱材に使う発泡ポリウレタンの原液も、見るからに反応しそうですが判定はどうなるのでしょうか。
これらはいずれも昭和の時代に消防庁へ寄せられた照会で、引火点のわずかな差や、容器の中にあるかどうかで判定が分かれる考え方は現行の基準でも変わらず続いています。
発電設備の熱媒体を交換するんですが、これって危険物として届け出が必要なんでしょうか。
引火点を測ってみないと即答できませんが、実は昭和の時代によく似た照会があって、今も判断の物差しは同じなんです。
それに、溶接用のボンベの中のアセトンまで規制の対象になるのか、ちょっと心配になってきました。
ちょうど良いタイミングです。
今回は五つの昭和の質疑応答を、現行の基準と照らし合わせて整理してみましょう。
- 発電用の熱媒体フロリノール85は、引火点42.8度のため第四類第二石油類の危険物に該当する
- 塩素化パラフィン系の混合物は、引火点が250度ちょうどで第四石油類の「未満」要件からわずかに外れ危険物に該当しない
- LPGの着臭剤は、混合後も液体として残る成分が引火点に応じて第四類の危険物として規制を受ける
- 溶接用アセチレンボンベの中のアセトンは、消防法第10条・第16条いずれの規制も受けない
- 断熱材用の発泡ポリウレタン原液は、沸騰しても引火しないため危険物に該当しない
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目次
フロリノール85は第四類第二石油類にあたるのか

燃料という言葉のイメージが薄い液体ほど、見落としやすい論点です。
現行の消防法別表第一の備考でも、第二石油類は「引火点が21度以上70度未満のもの」と定義されており、昭和53年当時の判定基準と変わっていません。
引火点と発火点は別の数値であり、燃焼が持続しない性質があっても引火点が規定の範囲に入れば危険物としての規制対象になります。
この判定の根拠になったタグ密閉式・クリーブランド開放式の引火点測定試験は、現在では危険物の試験及び性状に関する省令(平成元年自治省令第1号)第4条に、法令上の手続きとして明文化されています。
熱媒体や潤滑油のように燃料と呼ばれない液体を扱う設備でも、成分表やSDSで引火点を確認してから危険物施設としての届出要否を判断する必要があります。
熱媒体の交換時期なんですが、引火点なんて気にしたことがなかったです。
成分表に引火点の記載があるか、無ければメーカーに確認すると安心です。
気になる設備があればご相談ください。
塩素化パラフィンの混合物はなぜ危険物に該当しないのか

境界線ぎりぎりの事例です。
現行の消防法別表第一備考十六は、第四石油類を「引火点が200度以上250度未満のもの」と定義しており、250度は範囲外になるため危険物に該当しないという結論になります。
仮にこれが249度で引火していれば、第四石油類として危険物に該当していたはずです。
200度で激しく発泡するという性状は取扱いに注意が必要な印象を与えますが、発泡や液量の減少そのものは危険物該当性の判定基準にはならず、あくまで引火点の数値だけが基準です。
似た成分の製品でも、ロットによって引火点が数度動くことがあるため、1回の測定結果だけで安心せず定期的な確認が欠かせません。
1度の差で結果が変わるなんて、ずいぶん際どいんですね。
だからこそ、1回の測定結果だけで判断せず、定期的に確認することをおすすめしています。
LPGの着臭剤は危険物として規制を受けるのか

混ぜる前と後とで扱いが変わる事例です。
プロパン単体は常圧でガス状になるため消防法の危険物にはならず高圧ガス保安法の対象ですが、着臭剤を混ぜた高着臭剤は常圧でも液体のまま残る成分があり、その部分の引火点を測って第四類の該当性を判定するという扱いです。
常圧(760mmHg)でどれだけ液体が残るかという考え方は、現行の危険物の試験及び性状に関する省令が定める引火点測定の前提と同じ発想であり、昭和58年当時の回答の骨格は今も有効です。
受入れ・払出しタンクを危険物屋外タンク貯蔵所として扱うという判断は、高圧ガス保安法とは別に消防法の危険物規制が重ねて及ぶことを示しています。
LPGを扱う施設では、ガスそのものだけでなく、添加する着臭剤の側にも危険物規制がかかりうる点を見落とさないことが大切です。
ガス本体でなく着臭剤のほうが規制されるなんて、意外でした。
添加物のほうが引っかかる事例は他にもあります。
タンクの設計段階でご相談いただくのが確実です。
アセチレンボンベの中のアセトンは消防法の対象になるのか

容器に入る前と後とで答えが変わります。
溶解アセチレンは、アセトンを多孔質物質に染み込ませたところへアセチレンガスを高圧で溶かし込む方式で貯蔵されており、注入前のアセトンには消防法第10条の規制が及ぶ一方、ボンベに注入された後のアセトンは独立した危険物の貯蔵とはみなされません。
これは、アセトンがボンベの中でアセチレンガスの吸収溶剤という役割に変わり、高圧ガス保安法側の安全基準に委ねられるという整理です。
車両運搬についても同様に、消防法第16条の運搬基準ではなく高圧ガス保安法側の基準で扱われます。
現行法でも、高圧ガスとして規制される物品は消防法別表の危険物の枠外という整理は変わっておらず、ボンベの中に閉じ込められた少量のアセトンまで危険物規制の対象に含めないという昭和の回答の実務感覚は今も通用しています。
工場でアセチレンボンベを何本もまとめて置いているんですが、それも届出は要らないんですか。
消防法の危険物規制は受けませんが、高圧ガス保安法側の届出が別途必要になる場合があります。
そちらも合わせて確認しましょう。
発泡ポリウレタンの原液は断熱材でも危険物にあたるのか

引火点が確認できるかどうかがすべてです。
原液はポリエーテルポリオールを主成分とする混合物で、一方の液は42度、もう一方の液は61度でいずれも沸騰状態になるものの、引火はしなかったという試験結果が根拠になっています。
現行の消防法別表第一備考十が定める「引火性液体とは、引火の危険性を判断するための政令で定める試験において引火性を示すものであることをいう」という基本ルールに照らしても、沸騰しても引火しない液体は引火性液体の定義そのものに当てはまりません。
断熱材や発泡樹脂の原液は、現場では反応性の高い薬品という印象を持たれがちですが、危険物に該当するかどうかはあくまで引火点の試験結果で決まるという原則は、昭和58年の回答から現行法まで一貫しています。
数量算定の方法を問う設問についても、そもそも危険物に該当しないため算定自体が不要になるという結論です。
見た目で判断せず、まず試験結果を確認するのが基本なんですね。
はい、見た目の印象だけで扱いを決めると思わぬ見落としにつながります。
新しい原材料を扱うときはぜひご相談ください。
よくある質問
まとめ
見た目や高圧ガスかどうかだけで判断してはいけないんですね。
うちで扱っている液体も、一度引火点を確認してみます。
引火点はわずか1度の差で結果が変わることもあるので、古い資料だけで判断すると見落としにつながります。
㈱防災屋でもご相談を承っております。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 消防法別表第一・備考第十号・第十二号〜第十六号(e-Gov法令検索)
- 危険物の規制に関する政令第1条の6(e-Gov法令検索)
- 危険物の試験及び性状に関する省令第4条(e-Gov法令検索)
- 昭和53年4月13日消防危第48号(危険物規制課長から各都道府県消防主管部長あて回答)
- 昭和60年3月27日消防危第35号(危険物規制課長から兵庫県あて回答)
- 昭和58年1月17日消防危第5号(危険物規制課長から大阪府あて回答)
- 昭和58年12月22日消防危第139号(大阪府あて回答)
※本記事は昭和期の質疑応答を現行の消防法令と照らし合わせて解説したものです。個別の製品への適用は、所轄の消防署にご確認ください。





