学校の理科室や大学の研究室、病院の検査室に薬局の調剤室。
薬品の並んだ棚がある部屋は、消防の立入検査でまず目を向けられる場所です。
それでも指定数量に遠く届かない量なのだから決まりとは無縁だ、と考えている方は少なくありません。
ところが化学実験そのものを名指しした条文が火災予防条例に置かれています。
先日の立入検査で理科室の薬品棚を開けられました。
設備の話だと思っていたので少し驚きました。
実験室は薬品と火気の両方がそろう部屋です。
査察の着眼が立ちやすいところだといえます。
とはいえ置いてある量はどれも試薬びん数本ぶんです。
それでもかかる決まりがあるのでしょうか。
量の多い少ないとは別の入口が火災予防条例にあります。
化学実験という言葉そのものが条文に出てきます。
- 実験室や薬局で薬品を扱うときの決まりは市町村の火災予防条例に置かれています
- 根拠は消防法第9条のその他火の使用に関し火災の予防のために必要な事項という受け皿です
- 消防庁が示すひな型の第27条は場所で線を引き東京都の第27条は操作で線を引いています
- 指定数量の五分の一以上という量の条件はこの条文には書かれていません
- まずは自分の市町村の条例を開いて第27条のあたりの型を確かめるところから始めます
▼

目次
実験室の火災予防はどの決まりが受け持つのか

法律が中身を市町村の条例にゆだねているからです。
かまどやこんろは前半で名指しされていますが、化学実験はそのどちらにも当てはまりません。
そこでその他火の使用に関し火災の予防のために必要な事項というくくりに入り、市町村条例が中身を決めることになります。
消防法施行令(昭和36年政令第37号)第5条の3は、この受け皿で作る条例について火災の予防に貢献する合理的なものであることが明らかなものでなければならないとだけ定めています。
国は枠だけを示して細目は市町村に預けているので、条文を読むときは必ず自分の建物のある市町村の条例を開くことになります。
消防法だけを読んでも見つからないはずですね。
法第9条の後半の受け皿から条例へつながります。
市町村のページで条例の全文を開いてみてください。
どの実験やどの場所が対象になるのか

場所で線を引くものと、操作で線を引くものです。
消防庁が全国の市町村に示している火災予防条例(例)の第27条は、化学実験室と薬局という部屋を挙げて、少量の危険物についての基準に準じた取扱いを求める作りです。
これに対して東京都火災予防条例(昭和37年東京都条例第65号)の第27条は、火災の発生のおそれのある化学実験その他の操作をする場合にはと書き出しており、部屋ではなく操作を対象にしています。
同じ第27条という番号でも、対象の切り取り方がまったく違うということです。
自分の建物にかかるのがどちらの型かで見るところが変わりますので、条例の見出しをまず確かめておくと迷いません。
同じ番号なのに書いてあることが違うのですか。
ひな型は場所で東京都は操作で切っています。
他の市町村の条例を借りて読むと食い違います。
操作ごとになにを求められるのか

東京都の条文がその代表です。
一 蒸溜、抽出または合成等の操作に際しては、内容物の過熱、過圧または急反応による発火を防止するために、有効な抑制措置を講ずること。
二 蒸発、粉砕または水素添加等の操作に際しては、内容物から発散するガス、蒸気または粉じんの爆発を防止するために、裸火の使用を避け、かつ、有効な換気、集じん若しくは防爆措置を講ずること。
三 かくはん、遠心分離または洗浄等の操作に際しては、内容物のいつ流飛散による引火を防止するために、有効な誘導回収措置を講ずること。
(略)
六 前各号に規定するもののほか、火災予防上有効な措置を講ずること。
第1号から第5号までが具体的な操作の類型で、第6号がそこに収まらないものを拾う受け皿です。
省略した第4号は鍛造や鋳造などの操作について引火性または可燃性物質の接触や接近による発火を防ぐしや熱措置を、第5号は加工や輸送などの操作について漏えいや摩擦や衝撃による発火を防ぐ防しよくや防破や緩衝の措置を求めています。
どの号もこの装置を付けなさいという書き方ではなく、この危険が生じる操作にはこの向きの措置をという書き方になっています。
実験や作業の手順書を作るときは、使う装置ではなく行う操作の種類で並べ直すと条文と噛み合います。
装置ではなく操作の名前で並んでいるのですね。
手順書を操作の順で組み直すと照らし合わせやすくなります。
まずは実験の一覧を操作の名前で書き出してみてください。
実務で見落としやすいのはどこか

指定数量の五分の一に届かないから関係ない、とはどこにも書かれていません。
この号はもともと指定数量の五分の一以上を扱う場所についての基準ですが、条例(例)第27条はそこを量の条件を付けずに引いています。
つまり化学実験室や薬局では、置いてある量が少なくても標識と掲示板に準じた表示をすることが求められる作りです。
もう一つの見落としは対象になる物のほうで、第27条は危険物その他これに類する物品と書いており、消防法別表第一の危険物に当てはまらない薬品も視野に入れています。
棚の中身を危険物かどうかだけで仕分けると、このこれに類する物品が抜け落ちますので、名称と量の一覧は危険物以外もまとめて作っておくと安全です。
これだけ少ない量でも棚に表示が要るのですか。
ひな型の第27条は量の条件を付けずに引いています。
棚の表示から見直すと手を付けやすいはずです。
明日からなにを確認すればよいのか

立入検査で見られるのは条例が求めている中身そのものです。
はじめに所轄消防署の窓口か市町村の例規集で自分の建物にかかる火災予防条例を開き、第27条のあたりが場所で書かれているか操作で書かれているかを確かめます。
次に薬品棚を写真に撮り、標識と掲示板の有無、容器のふたと破損の有無、地震で落ちない措置がとられているかを一つずつ見ていきます。
そのうえで実験や作業の手順書を操作の種類で並べ直し、火を使う操作と換気が要る操作を分けて書いておきます。
消防法第2条第4項でいう関係者には占有者も含まれますから、テナントとして実験室を借りている場合もこの確認は自分の宿題になります。
借りている実験室でも自分たちで見るのですね。
実際に薬品を扱っている側が見るのがいちばん確かです。
棚の一覧と手順書を持って条例と突き合わせてみてください。
よくある質問
まとめ
帰ったらすぐ市の条例の第27条のあたりを開いてみます。
棚の一覧も作り直してみます。
棚の表示と手順書の見直しまでが一続きです。
㈱防災屋でもご相談を承っております。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 消防法(昭和23年法律第186号)第2条第4項・第4条第1項・第9条・第9条の4・別表第一
- 消防法施行令(昭和36年政令第37号)第5条の3
- 消防庁「火災予防条例(例)」(昭和36年11月22日自消甲予発第73号)第27条・第30条・第31条の2・第31条の4
- 東京都火災予防条例(昭和37年東京都条例第65号)第27条
- e-Gov法令検索(デジタル庁)
- 東京都例規集データベース
※本記事は公表されている法令および消防庁等の資料に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。





