渡り廊下やアトリウムでつながった複合ビルを見ていると、なぜか片方だけ構造が頑丈に作られていることがあります。
実はその境目の壁が特別な性能を満たしていれば、法律上は二つの建物として扱ってよいことになっています。
物理的には一つの建物なのに、法的には別々の建築物とみなすという仕組みです。
この記事では、その境目の壁に何が求められ、実務でどこに注意すべきかを条文に沿って整理します。
渡り廊下でつながった二棟が、法律上は別の建物として扱われることがあるんですか。
はい、境目の壁が特別な性能を満たしていればです。
その壁のことを建築基準法施行令は「火熱遮断壁等」と呼んでいます。
どんな壁ならその扱いになるんでしょうか。
火災が続く間、崩れず・熱を通さず・炎を回り込ませない壁です。
今日はその中身と、管理する側の注意点を見ていきましょう。
- 建築基準法施行令第112条第22項は、火熱遮断壁等で区画された部分を、面積区画の規定の適用についてはそれぞれ別の建築物とみなすと定めています。
- 火熱遮断壁等は、大規模建築物や特殊建築物の構造規制を部分ごとに区切るために使われる特別な壁・柱・床・防火設備です。(施行令第109条の8第1項)
- 認められるには、火災継続予測時間のあいだ崩れず・熱を通さず・炎を外に出さないなど5つの技術的基準を満たす必要があります。
- この壁は防火区画の壁とは別物で、建物を法的に分けるための壁のため、あとから開口部を設けるとみなし規定そのものが崩れます。
- 維持保全の記録に火熱遮断壁等の位置と認定内容を明記し、改修時は建築士に確認することが実務上の対応になります。
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目次
一つの建物がなぜ別々の建築物として扱われることがあるのか

その分かれ目を作っているのが、特別な性能を持つ壁や床です。
建築基準法は、大規模な建築物や特殊建築物に構造上の規制を課していますが、その規制は「建築物」という単位で適用されるのが原則です。
一つの複合施設が物理的には連続していても、火熱遮断壁等で区切られていれば、規制の単位もその境目で分かれます。
次の章で、この仕組みが実際にどの条文の場面で使われるのかを確認します。
見た目は一つの建物なのに、法律上は分かれるというのは不思議な感じがします。
境目の壁の性能次第で、規制の単位が変わる仕組みです。
次の章でどの条文に使われるかを見ていきましょう。
どの条文の場面でこの仕組みが使われるのか

複数の場面でくり返し使われる、共通のしくみとして定められています。
法第21条第3項は高さや階数が大きい建築物の主要構造部規制、法第27条第4項は劇場や病院など特殊建築物の耐火建築物化義務、法第61条第2項は防火地域・準防火地域の構造規制です。
さらに施行令第109条の2の2第2項(層間変形角)や第112条第22項(面積区画)でも、同じ火熱遮断壁等による区分がそのまま使われています。
つまり一度この壁を設ければ、複数の規制場面でまとめて「別の建築物」として扱ってもらえるということです。
次の章で、その壁に求められる中身を確認します。
面積区画にも同じ壁が使われているんですね。
はい、施行令第112条第22項がそのまま準用しています。
次はその壁に求められる技術的な中身を見ましょう。
火熱遮断壁等として認められるにはどんな性能が必要なのか

条文は5つの技術的基準を並べて、その一つひとつを満たすことを求めています。
一号と三号は壁そのものの耐火性能(変形・溶融・破壊を生じない、屋外に火炎を出す亀裂を生じない)を求めています。
二号は反対側の面が可燃物燃焼温度以上に上がらないという遮熱性能、四号は隣が倒壊しても自立を保つという構造上の独立性です。
五号は屋外に出た火炎が窓などを伝って回り込む延焼まで防ぐことを求めており、外壁面まで含めた性能であることが分かります。
「火災継続予測時間」は建物の構造・設備・用途に応じて国土交通大臣が定める時間で、一律の「一時間」のような固定値ではありません。
次の章で、この特別な壁を扱ううえで見落としやすい点を確認します。
普通の防火区画の壁より、求められることが多い印象です。
その分、建物を法的に分けるという強い効果が認められています。
だからこそ扱いには注意が必要です。
実務で見落としやすいのはどこか

普通の防火区画であれば、特定防火設備を設けた開口部を後から追加することも珍しくありません。
しかし火熱遮断壁等は、国土交通大臣が定めた構造方法や大臣認定に基づいて壁全体として性能が確認されたものです。
配管や設備を通すため、あるいはテナントの都合で通路を新設するために壁の一部へ手を加えると、認定の前提そのものが崩れ、みなし規定が適用できなくなるおそれがあります。
その場合、建物全体が一つの建築物として法第21条・第27条・第61条の規制を受け直すことになりかねません。
設計段階の構造計算書や大臣認定書がどこにあるか、日常の管理を担う側が把握していないケースも見受けられます。
テナント工事でついでに壁へ配管を通してしまいそうです。
その壁だけは工事前に必ず建築士へ確認してください。
次の章で日常の確認手順をまとめます。
明日から何を確認すればよいのか

- 確認済証・検査済証・構造計算書を確認し、火熱遮断壁等の有無と位置を把握する
- 該当する場合は、国土交通大臣が定めた構造方法か大臣認定かを確認し、認定書を保管する
- 維持保全計画や消防計画に、その壁の位置と役割を明記する
- 配管・設備工事やテナント改修の際は、その壁に触れる前に必ず建築士へ確認する体制を作る
- 壁に設けられた防火設備がある場合は、常時閉鎖・随時閉鎖の状態が保たれているかもあわせて点検する
図面での位置確認だけは、最初に済ませておくべき最重要のステップです。
書類が見当たらない場合は、建築確認を受けた特定行政庁の建築指導窓口に相談すると確実です。
古い建物だと、大臣認定書が見当たらないこともありそうです。
その場合は特定行政庁に記録が残っていることもあります。
まずは確認済証や検査済証から探してみてください。
よくある質問
まとめ
うちの建物にもその壁があるか、まずは図面を確認してみます!
維持保全や消防計画の見直しでお困りの際は、いつでもご相談ください。
㈱防災屋でもご相談を承っております。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 建築基準法第21条(大規模の建築物の主要構造部等)・第27条(耐火建築物等としなければならない特殊建築物)・第61条(防火地域及び準防火地域内の建築物)
- 建築基準法施行令第109条の2の2(主要構造部を準耐火構造とした建築物等の層間変形角)・第109条の8(別の建築物とみなすことができる部分)・第112条(防火区画)
※本記事は公表されている法令に基づく一般的な解説です。個別の建物への当てはめや構造方法・大臣認定の該当性は専門家による確認が必要です。個別の判断は所轄の特定行政庁または建築士にご確認ください。





