消防は、命令に従わない関係者を、警察や検察へ告発することがあります。
告発では、違反の事実を、あとから裁判で争われても崩れない形の証拠で残しておく必要があります。
平成14年10月に、消防庁防火安全室が、違反処理の執務資料として、43問の質疑応答をまとめました。
この記事では、その中から告発の実務に関わる5問を取り上げ、現行の消防法と照らして読みます。質問調書、写真、両罰規定、二つの命令違反、破産管財人を、順に確かめます。
消防が告発するとき、何を用意するんでしょうか。
はい。
質問調書や写真など、違反を裏づける証拠を整えます。
その考え方は、今の法律とつながっていますか。
一つずつ確かめます。
現行の条文に当たれるところは、当たって読みます。
- 質問調書に署名か押印を求めるのは、刑事訴訟法の証拠能力の規定に準じるためで、作らなくても警告や命令は出せると答えています
- デジタルカメラの映像は改変されやすいため、告発書に添える資料としての適否を、あらかじめ捜査機関と協議しておくよう求めています
- 両罰規定では、事業主が従業者の選任監督などの注意を尽くしたかが問われるので、違反が事業主の業務の範囲内だと供述で明確にします
- 使用禁止命令と改修命令の両方に違反していれば、一通の告発書に二つの適用法条を書いて告発すると答えています
- 破産管財人が管理する建物では、躯体の工事を伴う違反は原則として破産管財人が名あて人になりますが、テナントがいれば管理権原を確かめます
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目次
消防の違反処理で、告発はどんな位置づけなのか
消防長や消防署長は、防火対象物の関係者に、改修や使用禁止などの命令を出せます。命令に従わなければ、罰則の対象になります。現行の消防法では、第5条第1項の命令に違反した者は、第39条の3の2第1項により、2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金です。第5条の2第1項の使用禁止などの命令に違反した者は、第39条の2の2第1項により、3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金です。
罰則を科すのは裁判所です。消防は、違反を認めたときに、刑事訴訟法第239条第2項の「官吏又は公吏は、その職務を行うことにより犯罪があると思料するときは、告発をしなければならない」に基づいて、告発をします。
以下の5問は、その告発に向けた違反調査の実務を、質疑の文面から読み取れる範囲で見ていきます。
質問調書を作らないと、警告や命令は出せないのか

執務資料には、質問調書について、次の3つの問いが並んでいます。
(平成14年10月 消防庁防火安全室の執務資料 問36から問38に対する回答)
刑事訴訟法第321条は、被告人以外の者の供述書面で、供述者の署名か押印があるものを、一定の場合に限って証拠にできると定めています。第322条は、被告人の供述書面で、署名か押印があるものを、不利益な事実の承認を内容とするとき、または特に信用すべき情況の下にされたときに限って、証拠にできると定めています。
回答が署名か押印を求めるのは、この規定に準じて、裁判で証拠として使えるだけの形を整えるためです。
警告や命令は、違反の客観的な事実があれば出せます。一方で、命令に違反したという告発では、違反者が命令のあったことを知っていたか、つまり故意が問われます。命令書を渡すときに受領書を出させ、命令違反の認識を調書に残すことが、重要だと答えています。
調書がなくても、命令は出せるんですね。
はい。
告発のときに、故意を示す証拠として効いてきます。
デジタルカメラの写真は、告発書の資料として使えるのか

近年の写真は、デジタルカメラで撮ることが普通になりました。執務資料は、その映像を告発に使えるかを取り上げています。
(平成14年10月 消防庁防火安全室の執務資料 問39に対する回答)
理由は、映像が改変されやすいからです。裁判で、証拠として認められるかどうかや、どれだけ信用できるかが争われるおそれがあります。
同じ執務資料の別の問では、物件が置かれた状況を写真撮影して違反状況を特定することが示されています。撮った写真は、消防の中だけで保管して終わりではなく、告発を受ける側と、あらかじめ使い方を擦り合わせておくものだと読めます。
この回答は平成14年のものです。今の写真の扱いは、所轄の消防本部と警察や検察に確認します。
写真は撮っておけば安心、とはいかないんですね。
はい。
使い方を事前に協議しておくところまで含めて、準備です。
会社が罰せられるには、違反調査で何を確かめておくのか

現行の消防法第45条は、法人の代表者や、法人・人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人または人の業務に関して違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人には所定の罰金刑を、その人には各本条の罰金刑を科すと定めています。
(平成14年10月 消防庁防火安全室の執務資料 問40に対する回答)
確かめるのは、大きく3つです。選任監督の注意を尽くしたか、違反行為が事業主の業務の範囲内か、違反の防止のための指導や教育を怠っていなかったか、です。
現行の第45条第1号は、第39条の2の2第1項や第39条の3の2第1項の違反行為について、法人に1億円以下の罰金刑を定めています。命令違反の罰則は、行為者だけでなく、事業主にも及びます。
関係者の側から見ると、従業員任せにして指導や教育の記録が何もないことが、事業主の責任を問われる材料になりうると読めます。
従業員のしたことでも、会社が問われるんですね。
はい。
指導や教育を尽くしていたかが、確かめられます。
使用禁止命令と改修命令の両方に違反したとき、告発は何通になるのか

使用禁止の命令にも、改修の命令にも従わない場合の告発の仕方が、執務資料に載っています。
(平成14年10月 消防庁防火安全室の執務資料 問41に対する回答)
第5条の2第1項第1号の使用禁止などの命令は、第5条第1項の命令が守られないことが、前提になっています。そのため、後の命令への違反だけでなく、前の命令への違反も成立している、という整理です。
現行の消防法では、第5条第1項の命令違反は第39条の3の2第1項、第5条の2第1項の命令違反は第39条の2の2第1項が、罰則の条文です。罰則の重さの違う二つの条文が、そのまま告発の適用法条に並びます。
改修の命令を放置すると、使用禁止の命令が出され、それにも従わないと、2つの罪が問われうる流れです。
命令を放っておくと、罪が重なるんですね。
はい。
一通の告発書に、二つの適用法条が並びます。
破産管財人が管理する建物では、誰に措置命令を出すのか

執務資料は、所有者の所在が分からない建物のほか、破産管財人が管理している建物についても、命令の名あて人をどう考えるかを答えています。
(平成14年10月 消防庁防火安全室の執務資料 問43に対する回答)
破産法第78条第1項は、破産財団に属する財産の管理と処分をする権利が、裁判所が選んだ破産管財人に専属すると定めています。回答が「処分権が破産管財人に帰属する」というのは、この規定を踏まえた説明だと読めます。
消防法第5条の命令は、権原を有する関係者に出すものです。建物の躯体を触る工事は、処分権を持つ破産管財人でなければ実行できません。一方で、賃借権を持つテナントの営業空間の不備は、テナントが管理権原を持つ可能性があります。
所在が分からない関係者の扱いについては、別の記事で解説しています。今回の回答は、誰が権原を持つのかを違反の中身ごとに分けて考える点に特徴があります。
違反の中身で、命令する相手が変わるんですね。
はい。
管理権原を持つ人が誰かを、まず確かめます。
よくある質問
まとめ
質問調書が、告発の証拠になるんですね。
うちの命令書の受け取りも、控えを残しておきます!
命令のあったことを、記録に残すことが大切です。
㈱防災屋でもご相談を承っております。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 消防法第5条・第5条の2・第39条の2の2・第39条の3の2・第45条・第35条の13
- 消防組織法第42条
- 刑事訴訟法第239条・第321条・第322条
- 破産法第78条
- 平成14年10月 消防庁防火安全室「消防法の一部改正に伴う立入検査及び違反処理に関する執務資料について」
※本記事は公表されている法令および通知に基づく一般的な解説です。掲載した回答は発出当時のもので、条番号や機関の名称等は当時のものです。その後の改正により運用が変わっている場合があります。個別の事案についての適用は、所轄消防署にご確認ください。





