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航空機火災に消防機関はどう備えるのか|消防特第54号の手引きが示す空港消防との連携と炭素繊維の粉じん対策

航空機火災に備える消防の手引きは何を求めるのかを解説する記事のアイキャッチ画像。雨に濡れた駐機場で旅客機の手前に赤い空港消防車が停まる写真

航空機の火災は、市街地の火災とは条件が大きく異なります。
消防庁は令和8年3月30日、羽田空港の航空機火災などを踏まえ、消防機関向けの航空機火災対応の手引きを策定して、都道府県や消防長へ通知しました。
炭素繊維を使った機体の火災では、粉じんへの備えも求められています。
この記事では、消防特第54号の内容と、消防機関が平時に備えておくことを整理します。

空港のある街の消防は、航空機火災にどう備えればよいのでしょうか。

消防庁が令和8年3月に、手引きを通知しました。
まずは、何が示されたのかを確認しましょう。

空港消防が先に動くなら、市町村の消防は何をするのでしょうか。

市町村の消防も、空港消防と連携して対応する立場です。
その中身を、順に見ていきます。

この記事の結論
  • 令和8年3月30日の通知(消防特第54号)は、羽田空港の航空機火災などを踏まえた手引きを、消防機関に示したものです。
  • 手引きが主に対象にするのは、空港内で起きる大型旅客機の火災で、消防機関が現場へ到着した後の活動です。
  • 空港消防と平時から連携し、警防計画や情報共有の体制を整えておくことが重要だとされています。
  • 炭素繊維(CFRP)の機体では、粉じんや有毒ガスを防ぐため、N95規格以上のマスクや空気呼吸器などを着装します。
  • 通知は消防組織法第37条に基づく助言で、まず管内の空港消防や関係機関との連携状況を確認します。

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空港消防が先に対応し、消防機関が現場へ向かい、平時から警防計画と情報共有で連携する流れを示した図解

航空機火災の手引きはなぜ消防機関に向けて作られたのか

重ねた青い手引き冊子の上に通知の紙が置かれ、右側の空港の駐機場に白い旅客機が停まっているイラスト
この通知は、羽田空港の航空機火災などを踏まえて出されたものです。
まず、通知が何を目的に出されたのかを原文で確認します。
(「消防機関における航空機火災対応の手引き」の策定について 令和8年3月30日消防特第54号 消防庁特殊災害室長)(略)消防庁においては、令和6年1月の羽田空港航空機火災の発生等も踏まえつつ、消防機関の参考となる航空機火災対応の手引きを作成することを目的として、「消防機関における航空機火災対応に関する検討会」を開催したところです。(略)今般、「消防機関における航空機火災対応の手引き」をとりまとめました。各消防本部等においては、本手引きを確認の上、航空機火災対応能力の一層の向上に向けた取り組みを行っていただきますようお願いいたします。なお、本通知は、消防組織法(昭和22年法律第226号)第37条の規定に基づく助言として発出するものであることを申し添えます。
(消防機関における航空機火災対応の手引き 前文)令和6年1月2日に東京国際空港(羽田空港)で発生した海上保安庁機と日本航空機の衝突による航空機火災は、発生直後から空港消防や管轄の消防機関である東京消防庁が消火等の対応に当たりました。この火災は、技術革新により登場した炭素繊維を主体とした航空機による新しい形態の火災でもあり、社会に大きな衝撃を与えました。
消防組織法第三十七条 消防庁長官は、必要に応じ、消防に関する事項について都道府県又は市町村に対して助言を与え、勧告し、又は指導を行うことができる。
通知は、羽田空港の航空機火災などを踏まえ、消防機関向けの手引きを示したものです。
通知は、令和6年1月の羽田空港航空機火災の発生等を踏まえ、消防機関の参考となる手引きを作ることを目的に検討会を開いたと書いています。
手引きの前文は、この火災を、炭素繊維を主体とした航空機による新しい形態の火災と位置付けています。
発出は令和8年3月30日で、消防庁特殊災害室長から各都道府県消防防災主管部長、各消防本部消防長、非常備町村消防防災主管部局長に宛てた消防特第54号です。
通知は消防組織法第37条に基づく助言で、手引きは、運輸安全委員会が調査中の羽田空港の事故の結果も、今後反映していくとしています。

羽田空港の火災が、手引きを作るきっかけになったのですね。

はい、通知にも羽田空港航空機火災を踏まえたと書かれています。
次は、手引きが対象にする火災を確認しましょう。

手引きが対象にしているのはどの火災か

赤い空港用の消防車と、赤いシャッターの白い空港消防の建物が並んで舗装された敷地に置かれたイラスト
手引きは、すべての航空機火災を扱っているわけではありません。
適用範囲は、手引きの冒頭に書かれています。
(消防機関における航空機火災対応の手引き 適用範囲)1)空港内の火災は市街地の一般的な火災とは異なり、空港消防(空港管理者等)との連携や空港内の施設(消防水利等)を使用する等、空港特有の活動が必要となるため、本手引きは主に空港内で発生する航空機火災を対象とする。2)航空機の種類は、一般的にイメージし易く、被害が大規模化することが予想される大型旅客機を対象とする。3)空港内においては空港消防隊による初期消火活動が期待できることから、消防機関が実施する消火活動については、主に現場到着後の活動を対象とする。
航空法施行規則第九十二条 法第四十七条第一項(略)の国土交通省令で定める空港等の機能の確保に関する基準は、次のとおりとする。(略)九 空港等における航空機の火災その他の事故に対処するため必要な消火設備及び救難設備を備え、事故が発生したときは、直ちに必要な措置を講ずること。
消防組織法第六条 市町村は、当該市町村の区域における消防を十分に果たすべき責任を有する。
手引きが主に対象にするのは、空港内で起きる大型旅客機の火災です。
空港内の火災には、空港消防との連携や、消防水利などの空港内の施設の使用といった空港特有の活動が必要だと書かれています。
消防機関の消火活動は、空港消防隊による初期消火が期待できるとして、主に現場到着後の活動が対象です。
手引きは、空港消防は航空法施行規則第92条に基づき空港管理者が設置し、市町村の消防機関は消防組織法第6条により区域全体の消防責任を負うと整理し、両者の連携が不可欠だとしています。
空港以外で起きた航空機火災については、手引きの第7章が空港以外における航空機火災対応を別に扱っています。

大型旅客機の火災で、消防が到着した後の活動が中心なのですね。

はい、空港内では空港消防の初期消火が期待されています。
次は、平時の備えを確認しましょう。

空港消防との連携では平時に何を備えておくのか

空欄のチェック欄がある白紙のクリップボードと折りたたんだ空港の地図が左にあり、右に固定電話とファイルの束が置かれたイラスト
手引きは、火災が起きてからではなく、平時からの備えを重視しています。
中心になるのは、警防計画の作成と、空港消防との連携体制です。
(消防機関における航空機火災対応の手引き 警防計画の作成と空港消防との連携)航空機火災対応時は、空港消防や関係機関等と連携した活動が必要となる等、特有の留意点があることから、消防機関は警防計画を作成し、航空機火災が発生した場合の対応要領等を事前に定めておくことが重要である。(略)空港消防において活動手順等が更新された際には、警防計画等の見直しを行うことも重要であるため、情報共有を受ける体制の構築も行っておくことが重要である。
(消防機関における航空機火災対応の手引き 消防組織法に基づく消防機関の責務)消防庁は旧運輸省と協議の上、「○○空港及びその周辺における消火救難活動に関する協定(準則)」(昭和45年6月2日付け消防防第328号消防庁次長通知)(略)を策定しており、令和7年4月1日現在、供用中の全ての空港において協定が締結されている。
消防組織法第三十九条 市町村は、必要に応じ、消防に関し相互に応援するように努めなければならない。2 市町村長は、消防の相互の応援に関して協定することができる。
平時の備えの中心は、警防計画の作成と空港消防との連携体制です。
手引きは、消防機関が警防計画で、航空機火災が起きた場合の対応要領を事前に定めておくことが重要だとしています。
計画には、近隣や都道府県内の消防相互応援、緊急消防援助隊の要請の可能性、消防団の招集の考慮も、必要に応じて記載しておくとされています。
空港消防との連携は、例として示されたチェックリストで、連絡先、空港との協定、緊急時対応体制、消防水利、通信手段などを、定期的に確認・更新するよう求めています。
空港の体制や空港緊急時対応計画に変更があれば、警防計画を随時見直すことも重要とされています。

空港との協定は、すべての空港で結ばれているのですか。

手引きは、令和7年4月1日現在、供用中の全ての空港で締結済みと書いています。
次は、粉じん対策を確認しましょう。

炭素繊維の機体だと消火活動は何が変わるのか

濃い灰色の薄い層が重なった複合材の翼の断面が左にあり、右の小さな机に白い防じんマスクと透明なゴーグルと作業用手袋が並ぶイラスト
手引きが特に注意を促しているのが、炭素繊維(CFRP)製の機体です。
粉じんや有毒ガスへの備えが、個人装備に反映されています。
(消防機関における航空機火災対応の手引き 航空機火災の特性)CFRPは燃焼または切断すると、微細な炭素繊維の粉じんが空気中に飛散し、呼吸器系疾患を引き起こす可能性がある。また、CFRPを構成する樹脂等が燃焼すると、一酸化炭素やシアン化水素といった有毒ガスが発生する危険性もあるため、空気呼吸器やN95規格以上のマスクを使用する。
(消防機関における航空機火災対応の手引き 個人装備の注記)(略)CFRPからの粉じんは時間が経過しても発生すること、また、火災原因調査等では長時間の現場滞在が想定されるため、粉じんを大量に吸引するリスクが高いことから、鎮火後であっても適正な防護服等を着装する。
炭素繊維の機体では、粉じんと有毒ガスを防ぐ装備が前提になります。
個人装備は、消火・救助活動では防火衣、防火帽、空気呼吸器、ゴーグル類、手袋を着装し、残火処理ではN95規格以上のマスクなどとされています。
救急活動や火災原因調査では、防火衣またはタイベック等の防護服、防火帽または保安帽、N95規格以上のマスク、ゴーグル類、手袋を挙げています。
炭素繊維自体は耐熱性が高く燃焼しにくいため、一定の間、外形と気密性が保たれている可能性があり、内部で火災が起きて開口部がない場合はバックドラフトが発生する可能性が高いと注意しています。
装備は、火災の状況に応じて隊員の二次災害にも留意して変更できるとされています。

鎮火した後でも、防護服が必要になるのですか。

手引きは、粉じんが時間が経過しても発生するため、鎮火後も必要だとしています。
最後に、確認事項を整理しましょう。

明日から何を確認すればよいのか

赤い消防車が左にあり、右に旗竿のある白い事務所の建物とファイルの束と折りたたんだ平面図が並ぶイラスト
手引きは、発災時の情報収集先と進入方法を、平時に空港側と確認しておくよう求めています。
あわせて、情報連絡シートを空港消防と共有する例も示しています。
(消防機関における航空機火災対応の手引き 発災時の情報共有)航空機火災対応時には、いかに迅速かつ正確に災害状況が共有されるかが重要である。災害状況の情報収集先は空港ごとに異なるため、消防機関は航空機火災を覚知した際の情報収集先及び複数の収集先がある場合は優先順位について、平時に空港消防から入手しておく必要がある。
(消防機関における航空機火災対応の手引き 消火活動)空港内で航空機火災が発生した場合、消防機関が滑走路や誘導路等の制限区域内へ迅速に進入し、消防活動を実施することが重要である。そのため、制限区域内への進入方法及び空港側による確実な誘導等について、空港消防を含む空港管理者・管制機関等と消防機関が、平時から緊密な連携を図っておくことが不可欠である。
まず、発災時の情報収集先と進入方法を空港側と確認しておきます。
情報収集先は空港ごとに異なるため、優先順位も含めて平時に空港消防から入手しておくとされています。
手引きは、機種名、航空会社名・便名、航空機の素材、出火箇所、乗務員・乗客数、残燃料量、風向・風速などを載せた情報連絡シートの例を示し、平時から空港消防と共有しておくとしています。
制限区域内へは、空港側があらかじめ指定したゲートを使い、空港側の誘導のもとで進入するとされ、誘導が難しい場合に備えた消防車両の運転許可の検討も挙げられています。
手引きは、各空港の設備や規程の具体的な内容は、空港消防を通じて空港管理者等に確認する必要があるとしているため、管内の空港での確認が出発点です。

私の管内の空港では、何から確かめればよいのでしょうか。

まずは、空港消防の連絡先と情報収集先を確認しましょう。
進入ゲートもあわせて見ておきます。

よくある質問

Qこの通知は、消防本部に何かを義務づけていますか?
A通知は、消防組織法第37条に基づく助言として発出されたと書かれています。手引きを確認して取り組みを行うようお願いする内容で、義務を課す記載はありません。
Q手引きは、空港の外で起きた航空機火災も扱っていますか?
A手引きは主に空港内の火災を対象としていますが、第7章で空港以外における航空機火災対応も扱っています。
Q炭素繊維の粉じん対策では、どのマスクを使うのですか?
A消火・救助活動では空気呼吸器、残火処理ではN95規格以上のマスクまたは必要に応じて空気呼吸器等とされています。防じん防護対策の知見が更新された場合は変更される可能性があるとも書かれています。
Q空港のターミナルビルや燃料施設も、消防法の規制を受けますか?
A手引きは、ターミナルビル等の防火管理は消防法第8条に基づき実施され、航空燃料給油施設等には消防法の危険物施設としての規制が適用されると説明しています。

まとめ

✔消防特第54号は、羽田空港の航空機火災などを踏まえた航空機火災対応の手引きを消防機関に示した通知
✔通知は消防組織法第37条に基づく助言で、消防本部に義務を課す記載はない
✔手引きが主に対象にするのは、空港内の大型旅客機の火災で、消防機関は主に現場到着後の活動を担う
✔平時から警防計画を作り、空港消防との連携体制と情報共有を整えておく
✔炭素繊維(CFRP)の機体では粉じんと有毒ガスへの備えとして、N95規格以上のマスク等を着装する
✔鎮火後も粉じんは発生するため、防護服等の着装を続ける
✔まずは空港消防の連絡先や情報収集先、進入ゲートを確認する

まずは空港との連携を確認します!

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監修・編集者
青木 俊輔
青木 俊輔

㈱防災屋 代表取締役/消防設備士

平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!

本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。

詳しい経歴・保有資格を見る
学歴
  • 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
  • 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
  • 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
保有資格
  • 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
  • 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
  • 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
  • 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
  • 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
  • eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了

趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)

主な活動

参考・出典

  • 「消防機関における航空機火災対応の手引き」の策定について(令和8年3月30日 消防特第54号 消防庁特殊災害室長)
  • 消防機関における航空機火災対応の手引き(消防機関における航空機火災対応に関する検討会 令和8年3月)
  • 航空法施行規則(昭和27年運輸省令第56号)第92条
  • 消防組織法(昭和22年法律第226号)第6条・第37条・第39条
  • 消防法(昭和23年法律第186号)第8条

※本記事は公表されている法令および消防庁の通知に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。

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