避難訓練で救助袋を滑り降りて、大けがをした人がいると聞いたら、袋が壊れていたのだと思いませんか。
消防庁予防課は、平成22年に2回の事務連絡で、長野県と大阪府で起きた救助袋の負傷事故を、各都道府県と消防本部へ知らせました。
調べた結果は、事故の製品に構造や外観の欠陥がなく、降下速度も基準を満たしていた、というものでした。
この記事では、事務連絡の中身と、根拠になる条文と、訓練の前に確かめることを解説します。
救助袋の訓練で、そんなに大きな事故が起きたのですか。
原因は、袋の不具合ではないのですか。
事務連絡は、製品に異常は認められなかったと述べています。
まず、その中身から確かめましょう。
今の訓練にも、関係する話でしょうか。
訓練を定める消防法令の条文は、今も変わっていません。
順に見ていきます。
- 消防庁予防課は、平成22年5月26日と10月29日の事務連絡で、救助袋を使った避難訓練中の負傷事故を、都道府県と消防本部へ知らせました。
- 事故は、長野県の垂直式(3階から降下)と、大阪府の斜降式(4階から降下)で起き、どちらも重症1名でした。
- 調査では、事故の製品に構造や外観の欠陥はなく、降下速度も基準を満たしていました。
- 推測された原因は、靴が滑降部に引っかかって降下姿勢が変わったことや、足を袋の内面に引っかけたりひねったりしたことです。
- 消防庁は、降下姿勢の事前説明、年齢や体力に応じた安全確保、必要な補助者の配置を、関係者と点検業者へ周知するよう求めています。
▼
目次
消防庁はなぜ救助袋の訓練時の事故を事務連絡で知らせたのか

まず、その本文を引いて確かめます。
このたび、長野県において、救助袋を使用して避難訓練を実施中、3階から降下中の訓練参加者が当該救助袋の中でバランスを崩し、地面に臀部を打ち負傷する事故が発生したとの報告があり、消費者安全法上の「重大事故等」として当庁から消費者庁に通知したところです。本件については、製造事業者等に対し、原因究明等を求めているところであり、詳細がわかり次第、追ってお知らせする予定です。
宛先は、各都道府県消防防災主管課と、東京消防庁・各指定都市消防本部です。
同じ日に、日本消防設備安全センターと全国避難設備工業会にも、会員への周知を求める事務連絡が出ました。
消費者安全法は、重大事故等の情報を得た行政機関の長に、内閣総理大臣への通知を求めています。
まず、その条文を引いて確かめます。
行政機関の長、都道府県知事、市町村長及び国民生活センターの長は、重大事故等が発生した旨の情報を得たときは、直ちに、内閣総理大臣に対し、内閣府令で定めるところにより、その旨及び当該重大事故等の概要その他内閣府令で定める事項を通知しなければならない。
重大事故等の意味は、同法第2条第7項が定めています。
事務連絡は、事故が起きた事実と、訓練や点検の安全管理の徹底を、知らせるものです。
事故は、それほど重く受け止められたのですね。
はい、消防庁は消費者庁に通知したと述べています。
次に、どんな事故だったのかを見ましょう。
長野県と大阪府ではどんな救助袋の事故が報告されたのか

まず、その本文を引いて確かめます。
平成21年11月に長野県において発生した救助袋事故については、「避難器具(救助袋)の訓練時における落下事故について」(平成22年5月26日付け事務連絡)により、関係事業所等へ訓練、点検等の際の安全管理等の周知をお願いしたところです。
また、この事故のほか、大阪府においても救助袋の負傷事故が発生したとの報告がありました。
消防庁では、これらの事故に関する原因究明等について、製造事業者等に対し指示してきたところであり、このたび、その結果について報告がありましたので、別添のとおりお知らせします。
別添の事故概要から、2件を表にまとめます。
| 項目 | 長野県の事故 | 大阪府の事故 |
|---|---|---|
| 発生日 | 平成21年11月5日(木) | 平成22年5月31日(月) |
| 救助袋の種類 | 垂直式 | 斜降式 |
| 降下の状況 | 3階から降下中 | 4階から降下中 |
| 負傷者 | 1名(重症) | 1名(重症) |
| 事故の概要 | 降下中に袋の中でバランスを崩し、地面に臀部を打った | 降下中に袋の中で右足を負傷した |
実際の火災ではなく、訓練に参加した人が負傷しています。
5月26日の事務連絡は、大阪府の事故が起きる5日前の日付です。
そのため、大阪府の事故は、10月の事務連絡で初めて加わっています。
長野県と大阪府で、種類の違う救助袋の事故があったのですね。
はい、垂直式と斜降式で、どちらも重症でした。
次に、原因の調査結果を見ましょう。
原因の調査は救助袋そのものについてなにを明らかにしたのか

まず、長野県の事故の欄を引いて確かめます。
製造事業者及び日本消防設備安全センターによる調査の結果、事故製品に構造及び外観上の欠陥は存在せず、降下速度も基準を満たしており、事故製品自体に異常は認められなかった。よって、救助袋を降下中、降下者の靴が滑降部に引っかかったため、降下姿勢が変化し、イレギュラーな姿勢で着地した結果、臀部を強打し、負傷したものと推測される。
「推測される」とあるとおり、事務連絡は原因を断定してはいません。
調査したのは、製造事業者と日本消防設備安全センターです。
続けて、大阪府の事故の欄を引いて確かめます。
製造事業者及び日本消防設備安全センターによる調査の結果、事故製品に構造及び外観上の欠陥は存在せず、降下速度も基準を満たしており、事故製品自体に異常は認められなかった。よって、救助袋を降下中、足を救助袋の内面に引っかけたこと、あるいは足をひねったことにより負傷したものと推測される。
2件の調査結果に、共通することを表にまとめます。
| 確かめた点 | 長野県の事故 | 大阪府の事故 |
|---|---|---|
| 構造と外観 | 欠陥は存在せず | 欠陥は存在せず |
| 降下速度 | 基準を満たしている | 基準を満たしている |
| 推測される原因 | 靴が滑降部に引っかかり、降下姿勢が変化した | 足を内面に引っかけた、あるいは足をひねった |
降下速度が基準内であることは、安全な降下の保証ではありません。
袋に異常がなかったのに、なぜ大けがになるのでしょうか。
事務連絡は、降下中の足や姿勢が原因と推測しています。
そのため、訓練のやり方が問われます。
製品に異常がなくても訓練の関係者はなにを守らなければならないのか

まず、その依頼の部分を引いて確かめます。
貴職におかれましては、これを踏まえて防火対象物の関係者及び点検業者等に対し、防火対象物における救助袋を使用した訓練、点検等の際の参加者への降下姿勢等の事前説明の徹底、参加者の年齢、体力等に応じた安全確保の実施、必要な補助者の配置等安全管理の徹底について周知を図られますようお願いします。
事務連絡は、法令に新しい義務を加えたものではなく、周知のお願いです。
訓練そのものは、消防法施行令が、防火管理者の業務として定めています。
まず、その条文を引いて確かめます。
防火管理者は、前項の消防計画に基づいて、当該防火対象物について消火、通報及び避難の訓練の実施、消防の用に供する設備、消防用水又は消火活動上必要な施設の点検及び整備、火気の使用又は取扱いに関する監督、避難又は防火上必要な構造及び設備の維持管理並びに収容人員の管理その他防火管理上必要な業務を行わなければならない。
規則第3条第10項は、一定の用途の防火対象物の防火管理者に、訓練を年2回以上行わせています。
同条第11項は、訓練の前に、消防機関へ通報することも求めています。
まず、その条文を引いて確かめます。
令別表第一(一)項から(四)項まで、(五)項イ、(六)項、(九)項イ、(十六)項イ又は(十六の二)項に掲げる防火対象物の防火管理者は、令第三条の二第二項の消火訓練及び避難訓練を年二回以上実施しなければならない。
前項の防火管理者は、同項の消火訓練及び避難訓練を実施する場合には、あらかじめ、その旨を消防機関に通報しなければならない。
訓練の内容は、消防計画で決めます。
事務連絡の依頼は、その訓練を実際に行うときの安全管理のやり方を述べたものです。
訓練では、袋の点検だけでは足りないのですか。
はい、事前の説明と補助者も求められています。
最後に、確かめる手順をまとめます。
明日から救助袋の訓練を行う管理者はなにを確認すればよいのか

訓練の前に、次の5つを確かめましょう。
これは、事故で推測された原因を踏まえた実務上のおすすめです。
- 降下する前に、降下の姿勢や袋の中での動き方を、参加者全員に説明する
- 参加者の年齢や体力を見て、降下してよいか、別の方法にするかを決める
- 降下口と着地する場所に、補助者を置き、参加者の降下を見守る
- 靴の引っかかりを避けるため、降下する人の履物や服装を確かめておく
- 訓練の実施日や内容を消防計画どおりに行い、実施前に消防機関へ通報する
履物や服装の確認は、事故の推測原因を踏まえた、実務上の工夫です。
救助袋の型式や設置場所によって、注意する点は変わります。
迷ったときは、所轄の消防署や、点検を頼んでいる業者に相談してください。
明日から、まず何をすればよいですか。
まず、訓練の前に、降下の姿勢を全員に説明しましょう。
そのうえで、補助者の配置を決めます。
よくある質問
まとめ
降下の姿勢と補助者を、訓練の前に確かめておきます!
避難器具の点検や訓練の相談は、㈱防災屋でもご相談を承っております。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 事務連絡「避難器具(救助袋)の訓練時における落下事故について」(平成22年5月26日 消防庁予防課)
- 事務連絡「避難器具(救助袋)事故の発生について」(平成22年10月29日 消防庁予防課)
- 消防法施行令(昭和36年政令第37号)第3条の2 e-Gov法令検索
- 消防法施行規則(昭和36年自治省令第6号)第3条 e-Gov法令検索
- 消費者安全法(平成21年法律第50号)第2条、第12条 e-Gov法令検索
※本記事は公表されている法令および消防庁の事務連絡に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。





