防火管理者として日々の運用を担っていると、古い建物を増築するときに構造の基準がどう扱われるのか気になる場面があります。
建築基準法は、既に建っている建物が現行の耐震関連規定に適合していなくても、直ちに是正を求めない仕組みを持っています。
ただし増築や改築をする場合は話が別で、原則としていったん現行基準への適合が求められます。
この記事では、建築基準法施行令第137条の2が定める増築範囲ごとの構造耐力の緩和基準を整理します。
うちの建物、法律ができる前に建てたので今の耐震基準には合っていません。
それでも増築はできるんでしょうか。
そうしたお悩みは多いです。
建築基準法施行令第137条の2に、増築の範囲ごとの緩和基準が定められています。
増築の大きさによって扱いが変わるということですか。
はい、増築する部分の床面積の割合で三段階に分かれます。
今日はその区分と、必要な構造方法を整理しましょう。
- 既存不適格の建物でも、増築・改築の規模に応じて構造耐力の基準が三段階に緩和されます(建築基準法第86条の7第1項)。
- 対象となるのは、法第3条第2項により現行の第20条の規定の適用を受けない建築物です。
- 区分の分かれ目は、増築部分の床面積の合計が基準時における延べ面積の20分の1を超えるかどうかです(施行令第137条の2)。
- 増築部分をエキスパンションジョイント等で切り離せば、増築部分だけを現行基準に適合させれば足ります。
- どの区分でも、増築しない部分の構造耐力上の危険性を増大させてはなりません。
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目次
古い建物の増築になぜ構造耐力の基準緩和があるのか

古くからある建物の中には、この基準ができる前に建てられ、今の基準に適合しなくなったものが少なくありません。
建築基準法第3条第2項は、法令の施行や改正の際に既に建っている建物へ、新しい基準を遡って適用しない仕組みです。
これにより古い建物は第20条の現行基準に適合していなくても、そのまま使い続けられます。
ただし同法第3条第3項は、増築や改築の工事に着手すると、この既存不適格の扱いが打ち切られると定めています。
そこで第86条の7第1項が、政令で定める範囲内の増築・改築であれば、増築後の構造方法が政令の基準に適合する限り、この打ち切りを回避できると定めています。
増築すると打ち切られてしまうところを、条件付きで避けられるということですね。
その条件は、増築の大きさで変わるんでしょうか。
はい、増築部分の床面積の割合で条件が三段階に分かれます。
次の章で具体的な区分を見ていきましょう。
増築の規模によって求められる基準はどう変わるのか

どの区分に当たるかで、求められる構造方法の重さが変わります。
第一号は、次の第二号・第三号に当たらない増築・改築の全部を対象とする、もっとも規模の大きい区分です。
第二号は、増築部分の床面積が延べ面積の20分の1(50平方メートル超なら50平方メートル)を超え、2分の1を超えない区分です。
第三号は、増築部分の床面積が延べ面積の20分の1(50平方メートル超なら50平方メートル)を超えない、もっとも小規模な区分です。
床面積の割合で区分が決まるんですね。
それぞれの区分で、具体的にどんな構造方法が必要なんでしょうか。
区分ごとに求められる中身が変わります。
次の章で順番に確認しましょう。
それぞれの区分で構造方法は何を満たせばよいのか

区分が大きいほど、現行基準に近づける範囲が広くなります。
第一号(区分が最大の増築・改築)は、増築後の建物全体を耐震関係の技術基準に適合させるか、エキスパンションジョイント等で増築部分を構造的に切り離したうえで増築部分だけを現行基準に適合させる方法を選べます。
第二号(中規模の増築・改築)は、増築後の建物全体を耐久性等関係規定と国土交通大臣が定める基準に適合させるか、木造建築物の基準と基礎の補強基準に適合させます。
第三号(もっとも小規模な増築・改築)は、増築に係る部分だけを構造耐力の規定に適合させ、かつ増築しない部分の構造耐力上の危険性を増大させないことが条件です。
どの区分でも、増築部分そのものの構造安全性を確保する点は共通しています。
小さい増築でも、増築しない部分に条件が付くんですね。
この延べ面積は、いつの時点の数値を使うんでしょうか。
それは「基準時」という別の定義が決めています。
次の章で、実務で見落としやすいポイントとあわせて説明します。
基準時の延べ面積はいつの数値を使うのか

この基準時の意味を取り違えると、区分の判断そのものを誤ってしまいます。
施行令第137条が定める基準時とは、その建物が第20条などの規定の適用を受けなくなった期間の始期、つまり既存不適格になった時点をいいます。
第137条の2の各号が比較する「基準時における延べ面積」は、この時点での延べ面積であり、その後に増築を重ねてもその都度更新される数値ではありません。
複数回にわたって増築してきた建物では、最新の延べ面積ではなく当初の基準時の延べ面積を基準にする点を見落としやすいので注意が必要です。
どの号に該当するか判断する前に、まず基準時がいつかを確定させることが実務の出発点になります。
基準時がいつなのか、先に確定させないといけないんですね。
計画するときは、具体的にどう確認すればいいですか。
はい、基準時の確認が最初のステップです。
最後に実務での確認手順をまとめます。
増築を計画するときはなにを確認すればよいか

判断に迷う部分があれば、早めに特定行政庁や専門家へ相談するのが安全です。
- 自分の建物がいつの時点で法第20条の適用を受けなくなったか、基準時を特定する
- 基準時における延べ面積を確認し、増築部分の床面積の合計がどの区分に当たるかを試算する
- 該当する号(第一号・第二号・第三号)ごとに求められる構造方法を確認する
- 増築部分をエキスパンションジョイント等で切り離す方法を使うかどうかを設計の早い段階で検討する
- 増築しない部分についても、構造耐力上の危険性が増大しないことを確認する
着工後に区分の判断が変わると、計画の手戻りが発生します。
基準時と床面積の割合を先に確認しておけば、計画の手戻りを避けられそうです。
次はよくある質問も見てみます。
はい、あわせてご確認ください。
次によくある質問をまとめました。
よくある質問
まとめ
増築の計画を立てるときは、基準時と区分を確認しながら進めます!
建築物の増築や改築をお考えの際は、いつでもご相談ください。
㈱防災屋でもご相談を承っております。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 建築基準法(昭和二十五年法律第二百一号)第3条・第20条・第86条の7
- 建築基準法施行令(昭和二十五年政令第三百三十八号)第137条・第137条の2
※本記事は公表されている法令に基づく一般的な解説です。個別の建物への適合可否や構造計算の要否は、増築の内容によって異なります。具体的な判断は所轄の特定行政庁または専門家にご確認ください。





