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屋根の防火性能に適合しない既存不適格建築物はなぜ増築しても現行基準を満たさずに済むのか|建築基準法施行令第137条の2の3が定める緩和の要件を解説

屋根の一部が古い瓦、一部が新しい金属屋根になっている建物の外観写真

防火地域や準防火地域以外の市街地でも、特定行政庁が指定する区域内では、建築物の屋根に飛び火による火災の発生を防ぐための性能が建築基準法第22条によって義務づけられています。
古くからある建物の中には、建てた当時は適法でも、区域の指定や基準の見直しによってこの規定に適合しなくなったものが少なくありません。
こうした「既存不適格建築物」が増築や改築をしようとすると、原則としては屋根も含めて建物全体を現行基準に合わせる必要が生じます。
けれども一定の要件を満たせば、建築基準法施行令第137条の2の3により、この負担が一部緩和されます。

うちの建物は屋根の防火性能を求める区域にあって、今の基準には合っていない古い屋根なんです。
増築するなら、屋根も全部やり直さないといけませんか。

いいえ、要件を満たせば屋根全体まで直さなくても増築できます。
建築基準法施行令第137条の2の3という緩和の規定があるんです。

緩和があるんですね、少し安心しました。
どんな建物のどんな増築が対象になるんでしょうか。

対象になるのは、屋根の性能基準に適合していない建物の増築や改築です。
この記事で、対象と要件を順番に確認していきましょう。

この記事の結論
  • 屋根の性能基準に適合しない既存不適格建築物も、要件を満たせば増築や改築ができます(建築基準法第86条の7第1項)。
  • 対象となるのは、法第3条第2項により現行の第22条第1項の規定の適用を受けない建築物です。
  • 要件は、増築・改築に係る部分の対象床面積の割合と、それ以外の部分への影響の2点です(施行令第137条の2の3)。
  • 対象床面積の合計は、基準時における延べ面積の20分の1を超えないことが必要です。
  • 他の137条の2系(構造耐力・外壁等)と違い、屋根関係にはこの割合要件を代替する区画の経路がありません。割合を超えると建物全体が対象になります。

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屋根の増築部分が延べ面積の20分の1を超えなければ現行基準を適用しないことを示す図解

なぜ屋根の防火性能は指定区域の建物に一律に求められるのか

区域の境界線の中に、周囲より古い屋根材の建物が一棟だけ混じって建っているイラスト
防火地域や準防火地域とは別に、特定行政庁は市街地の一部を指定して屋根の構造に基準を課すことができます。
建築基準法第22条は、この指定区域内の建物の屋根に、通常の火災を想定した飛び火による火災の発生を防止する性能を求めています。
建築基準法第二十二条 特定行政庁が防火地域及び準防火地域以外の市街地について指定する区域内にある建築物の屋根の構造は、通常の火災を想定した火の粉による建築物の火災の発生を防止するために屋根に必要とされる性能に関して建築物の構造及び用途の区分に応じて政令で定める技術的基準に適合するもので、国土交通大臣が定めた構造方法を用いるもの又は国土交通大臣の認定を受けたものとしなければならない。
指定区域内の建物も、建てた当時はほとんどが適法でした。
区域の指定や第22条の技術的基準そのものが見直されると、建てたときは適合していた屋根が、その後の基準に適合しなくなることがあります。
これが建築基準法第3条第2項が定める「既存不適格建築物」で、違反建築物ではなく、そのまま使い続けること自体は認められています。
問題になるのは増築や改築をするときで、原則としては工事にあわせて屋根も含む建物全体を現行の第22条の基準に適合させなければなりません。
この負担を一定の範囲で軽くするのが、建築基準法第86条の7と施行令第137条の2の3の緩和規定です。

基準が変わったせいで古い屋根が合わなくなることがあるんですね。
自分の建物がそうなのか、どうやって分かりますか。

建築確認を取った当時の図面と、今の第22条の基準を照らし合わせれば分かります。
迷ったら特定行政庁や設計士に確認するのが確実です。

どんな建物のどんな増築が緩和の対象になるのか

建物に小さな増築部分が接続し、その境界線に青いチェックマークが付いているイラスト
緩和の対象になるのは建物そのものではなく、増築や改築という工事の範囲です。
どんな増改築でも使える制度ではなく、対象になる部分が政令で決められています。
建築基準法第八十六条の七第一項(抜粋) 第三条第二項の規定により(略)第二十二条第一項(略)の規定の適用を受けない建築物について政令で定める範囲内において増築、改築、大規模の修繕又は大規模の模様替をする場合においては(略)、これらの規定は、適用しない。
対象になるのは、第22条の規定に適合しない建物の増築や改築だけです。
建築基準法第86条の7第1項は、第3条第2項により第22条など複数の規定の適用を受けない建築物について、政令で定める範囲内で増築・改築・大規模の修繕・大規模の模様替をする場合に、その規定を適用しないと定めています。
このうち屋根に関する増築・改築の範囲を具体的に定めているのが、次の章で見る施行令第137条の2の3です。
大規模の修繕や大規模の模様替、構造耐力や外壁など屋根以外の規定は、それぞれ別の条項で範囲が決まるため、この記事では屋根に関する増築・改築に絞って説明します。

増築だけじゃなくて改築でも対象になるんですね。
具体的にはどんな要件を満たせばいいんでしょうか。

要件は面積の割合と、他部分への影響の2点です。
次の章で順番に見ていきましょう。

緩和を受けるにはどんな要件を満たす必要があるのか

建物全体の床面積の中で増築部分だけが小さく色分けされ、天秤で釣り合いを示しているイラスト
前の章で見た対象について、具体的に満たすべき要件を確認します。
要件は面積の割合に関するものと、他の部分への影響に関するものの2つです。
建築基準法施行令第百三十七条の二の三(屋根関係) 法第三条第二項の規定により法第二十二条第一項の規定の適用を受けない建築物についての法第八十六条の七第一項の政令で定める範囲は、増築及び改築については、増築又は改築に係る部分の対象床面積の合計が基準時における延べ面積の二十分の一を超えず、かつ、当該増築又は改築が当該増築又は改築に係る部分以外の部分の屋根における延焼の危険性を増大させないものである増築又は改築に係る部分とする。
要件は、面積の割合と延焼危険性の2つを同時に満たすことです。
1つ目は、増築・改築に係る部分の対象床面積の合計が、基準時における延べ面積の20分の1を超えないことです。
対象床面積は階段室や機械室など火災のおそれが少ない部分の床面積を除いた面積で、増改築のたびに合計して判定します。
2つ目は、その増築・改築が、増改築部分以外の屋根における延焼の危険性を増大させないものであることです。
この2つをどちらも満たす部分だけが、現行の第22条の適用を受けずに増築・改築できます。

20分の1というと、かなり小さい増築でないと使えない要件なんですね。
大きめの増築を考えている場合はどうなりますか。

超えた場合にどうなるかは、次の章の注意点で説明します。
他の緩和規定との違いも含めて見ていきましょう。

実務で見落としやすいのはどこか

小さな増築部分を持つ許容範囲内の建物と、大きな増築部分を持ち赤い禁止マークが付いた建物を並べたイラスト
屋根関係の要件を見てきましたが、他の137条の2系の規定と比べると特徴的な違いがあります。
似た構成の規定が並んでいるからこそ、取り違えやすい点に注意が必要です。
建築基準法施行令第百三十七条の二(構造耐力関係)第一号ロ(抜粋) 増築又は改築に係る部分がそれ以外の部分とエキスパンションジョイントその他の相互に応力を伝えない構造方法のみで接すること(略)。
見落としやすいのは、屋根関係には割合要件を代わりに満たす経路が無い点です。
構造耐力に関する施行令第137条の2や外壁に関する第137条の2の4には、面積の割合を超える場合でも、増築部分をエキスパンションジョイント等で区画したり、大臣が定める基準に適合させたりする代わりの経路が用意されています。
これに対して屋根関係の第137条の2の3には、そうした代わりの経路が定められていません。
そのため対象床面積の合計が延べ面積の20分の1を超えると、この規定による緩和そのものが使えなくなり、屋根については建物全体を現行の第22条の基準に適合させる必要が生じます。
他の137条の2系の規定と混同して「大きな増築でも区画すれば大丈夫」と考えると、思わぬ手戻りにつながります。

構造や外壁の規定と同じ感覚で考えると危ないんですね。
条項ごとに要件が違うことをきちんと確認しないといけませんね。

はい、条項ごとに緩和の作りが違う点は特に注意が必要です。
最後に実務での確認手順をまとめます。

増築や改築を計画するときは何を確認すればよいか

チェックリストとメジャーのイラスト
増築や改築を計画する際は、次の点を順番に確認してください。
判断に迷う部分があれば、早めに専門家へ相談するのが安全です。
  • 自分の建物が特定行政庁の指定する屋根の性能基準の区域にあるかを確認する
  • 自分の建物が法第3条第2項の適用を受ける既存不適格に当たるかを確認する
  • 基準時の延べ面積を確認し、増改築部分の対象床面積の合計が20分の1に収まるかを試算する
  • その増築・改築が他の部分の屋根の延焼の危険性を増大させないかをあわせて確認する
  • 20分の1を超える計画の場合は、屋根全体を現行基準に適合させる前提で計画を組み直す
計画の早い段階で確認しておくことが大切です。
設計が固まってから要件を満たさないと分かると、計画の手戻りが発生します。

面積の割合を先に試算しておけば、無理な計画を避けられそうです。
次はよくある質問も見てみます。

はい、あわせてご確認ください。
次によくある質問をまとめました。

よくある質問

Q屋根の性能基準に適合しない建物は、増築するとき必ず屋根まで現行基準に合わせないといけませんか?
Aいいえ。建築基準法施行令第137条の2の3の要件を満たせば、増築・改築に係る部分について現行の第22条の規定を適用しないという緩和を受けられます。
Q緩和を受けるための要件にはどのようなものがありますか?
A増改築に係る部分の対象床面積の合計が基準時の延べ面積の20分の1を超えないことと、それ以外の部分の屋根の延焼の危険性を増大させないことの両方を満たす必要があります。
Q増築部分を防火区画すれば、20分の1を超えても緩和を受けられますか?
A受けられません。屋根関係の第137条の2の3には、構造耐力や外壁の規定にあるような区画による代わりの経路が定められていないためです。
Q対象床面積とは何を指しますか?
A増築・改築に係る部分の床面積から、階段室や機械室など火災のおそれが少ない部分の床面積を除いた面積です。

まとめ

✔屋根の性能基準に適合しない既存不適格建築物も、要件を満たせば増築・改築ができます。
✔根拠は建築基準法第86条の7第1項と施行令第137条の2の3です。
✔対象になるのは、法第22条の規定に適合しない建物の増築・改築です。大規模の修繕・模様替や屋根以外の部位は別の条項によります。
✔要件は、増改築部分の対象床面積の合計が基準時の延べ面積の20分の1を超えないことと、他部分の延焼危険性を増大させないことの2つです。
✔他の137条の2系のような区画による代わりの経路は用意されていません。
✔20分の1を超えると、屋根については建物全体を現行基準に適合させる必要が生じます。
✔計画段階で基準時の延べ面積と対象床面積の割合を試算しておくことが大切です。

増築の計画を立てるときは、今日の内容を確認しながら進めます!

建築物の増築や改築をお考えの際は、いつでもご相談ください。
㈱防災屋でもご相談を承っております。

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監修・編集者
青木 俊輔
青木 俊輔

㈱防災屋 代表取締役/消防設備士

平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!

本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。

詳しい経歴・保有資格を見る
学歴
  • 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
  • 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
  • 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
保有資格
  • 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
  • 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
  • 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
  • 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
  • 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
  • eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了

趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)

主な活動

参考・出典

  • 建築基準法(昭和二十五年法律第二百一号)第3条・第22条・第86条の7
  • 建築基準法施行令(昭和二十五年政令第三百三十八号)第137条の2・第137条の2の3

※本記事は公表されている法令に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄の特定行政庁または専門家にご確認ください。

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