老人ホームや病院の2階以上には、原則として避難はしごや救助袋などの避難器具が必要です。
ただし国の規則には、バルコニーと地上への階段があれば避難器具を設置しないことができる定めがあります。
さらに堺市は、福祉施設と病院向けの指導指針で、区画・連続式のバルコニー・2か所以上の階段がそろえば、消防法施行令第32条の特例で避難器具を設置しないことができると書いています。
この記事では、堺市の指導指針の条件を、参照先の項目と国の消防法施行令・施行規則まで順にたどり、大阪市・東大阪市の基準とも比べます。
堺市で3階建ての老人ホームを計画しています。
各部屋にバルコニーを付ける予定です。
それなら、避難器具を設置しないことができる場合があります。
ただし国の規則と堺市の指針で条件が少し違います。
国と市で、見るところが違うのですね。
はい、堺市の指針は別の項目を参照しています。
国の条文から順に読んでいきましょう。
- 国の基準では、老人ホームや病院などの(6)項の2階以上の階は、収容人員20人以上(下の階に店舗などがあれば10人以上)で避難器具が必要です
- 国の施行規則第26条第5項第2号は、耐火構造で、居室にバルコニーがあり、そこから地上へ通じる階段があれば避難器具を設置しないことができると定めています
- 堺市の指導指針は、耐火建築物・入居室の区画・幅110センチメートル以上の連続式バルコニー・2か所以上の階段がそろえば、施行令第32条を積極的に適用するとしています
- 指針の条件は「前の項目による」という形で区画やバルコニーの細かな基準を参照しているので、参照先まで読む必要があります
- 今回確認した大阪市・東大阪市の公開基準には、福祉施設や病院に限った同じ特例は見当たりませんでした
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目次
国の基準では老人ホームや病院のどの階に避難器具が必要か

避難器具が必要になる階は、消防法施行令第25条第1項第1号で決まります。
一 別表第一(六)項に掲げる防火対象物の二階以上の階又は地階で、収容人員が二十人(下階に同表(一)項から(四)項まで、(九)項、(十二)項イ、(十三)項イ、(十四)項又は(十五)項に掲げる防火対象物が存するものにあつては、十人)以上のもの
自分で避難するのが難しい人が多く入る建物だからです。
一方で、同じ第25条の第2項第1号には、次のただし書があります。
どんな器具を選べるかは、鈴鹿市の病院や福祉施設の避難器具の記事で国の表を含めて解説しています。
老人ホームだと、20人から必要になるのですね。
はい、下の階に店舗などがあれば10人からです。
次は、設置しないことができる国の条件を見ましょう。
国の規則ではバルコニーがあれば避難器具を設置しないことができるのか

バルコニーにかかわるのは、第2号です。
イ 特定主要構造部を耐火構造としたものであること。
ロ 居室の外気に面する部分にバルコニー等(令別表第一(五)項及び(六)項に掲げる防火対象物にあつては、バルコニーに限る。)が避難上有効に設けられており、かつ、当該バルコニー等から地上に通ずる階段その他の避難のための設備(令別表第一(五)項及び(六)項に掲げる防火対象物にあつては階段に限る。)若しくは器具が設けられ、又は他の建築物に通ずる設備若しくは器具が設けられていること。
第5項にはほかに、区画や避難階段を組み合わせる第1号と、直通階段に直接通じる居室を対象とする第3号もあります。
3つの号の全体は、施行規則第26条第5項の記事で解説しています。
国の基準でも、バルコニーと階段で外せるのですね。
はい、ただし(6)項はバルコニーと階段に限られます。
次は、堺市の指導指針を読みましょう。
堺市の指導指針は避難器具を設置しない条件をどう定めているのか

その1つが「社会福祉施設及び病院等に係る指導指針」で、適用範囲は次のとおりです。
(2) 政令別表第1(16)項イに掲げる防火対象物で前(1)の用途に供する部分
(3) その他これらに類する防火対象物
a 耐火建築物で、前(2).ア.(イ)により区画されていること。
b 各居室の外気に面する部分にバルコニー等が、前ア及びイ.(ア)により設けられていること。
c 前bのバルコニー等から直接地上等に通ずる階段が、2ヶ所以上設けられていること。
順にたどると、次のようになります。
- aの「前(2).ア.(イ)」は、同じ指針の延焼拡大防止対策の防火区画等の項目です。
- その項目は、各入居室の壁を建築基準法施行令第114条第2項の「防火上主要な間仕切壁」で区画し、出入口などに不燃材料の扉を付けるよう求めています。
- 建築基準法施行令第114条第2項は、その間仕切壁を準耐火構造とし、小屋裏または天井裏まで達するように定めています。
- bの「前ア」は、避難及び消防活動対策のバルコニー等の設置の項目で、連続式のバルコニー・地上への階段・幅110センチメートル以上を求めています。
- bの「イ.(ア)」は、同じく段差の解消の項目で、避難経路の床に段差を設けないよう求めています。
- cは参照なしで、そのバルコニーから直接地上へ通じる階段が2か所以上あることを求めています。
(イ) 前(ア)のバルコニーには、直接地上等へ避難ができるように階段を設置すること。なお、階段は、努めてバルコニー上で2方向避難が可能であるように設置すること。
(ウ) バルコニーの幅員は、110cm以上とするとともに、転落防止に配慮した構造とすること。
(ア) 避難経路となる廊下、バルコニー及び当該部分への出入口の床等には、段差を設けないものとする。ただし、やむを得ず段差を設ける場合にあっては、概ね2cm以下とすること。
審査基準の凡例では、無印は「法令基準及びその解釈」、◆と★は指導基準と説明されています。
ただ、指針そのものは冒頭で「指導を行うために」定めたものと書いており、義務か指導かの線引きは個々の計画で所轄の消防署に確かめるのが確実です。
「前の項目により」の先に、幅や段差の数字があるのですね。
はい、参照先まで読むと条件がそろいます。
次は、国の規則と並べて違いを見ましょう。
国の規則と堺市の指針の条件はどこが違うのか

| 項目 | 国(規則第26条第5項第2号) | 堺市(指導指針 3(3)ク(ア)) |
|---|---|---|
| 建物の構造 | 特定主要構造部を耐火構造 | 耐火建築物 |
| 入居室の区画 | 定めなし | 防火上主要な間仕切壁で区画し不燃材料の扉 |
| バルコニー | 居室の外気に面する部分に避難上有効に((6)項はバルコニーに限る) | 各居室の外気に面する部分に連続式・幅110センチメートル以上 |
| 床の段差 | 定めなし | 段差なし(やむを得なければおおむね2センチメートル以下) |
| 地上への階段 | バルコニーから地上に通ずる階段((6)項は階段に限る) | 直接地上等に通ずる階段が2か所以上 |
| 根拠の形 | 施行規則の定め | 施行令第32条の特例 |
そして、その条件を満たしたときの根拠を、施行規則ではなく施行令第32条に置いています。
堺市の指針は、福祉施設と病院について「この条件がそろえば積極的に適用する」と判断の目安を示していると読めます。
なお、指針は「省令第26条第5項各号に定めるほか」と書いているだけで、国の第2号とどちらで判断するかの関係までは書いていません。
計画の段階で、どちらの根拠で避難器具を設置しないのかを所轄の消防署に確かめておくと安心です。
国の条件に、区画や階段の数が足されているのですね。
はい、特に階段2か所以上は設計に大きく効きます。
最後に、大阪市と東大阪市の基準を見ましょう。
大阪市と東大阪市にも同じような特例はあるのか

ただし、その中身は屋外階段や後退した建物、さるばしごなどで、福祉施設や病院に限った特例は見当たりませんでした。
1 屋外階段等の取り扱い
堺市の避難器具の審査基準の特例適用基準も、屋外階段で個数を減らすものだけで、福祉施設と病院の特例は指導指針の側に置かれています。
屋外階段で個数を減らす大阪市の特例は、大阪市の屋外階段と避難器具の記事で解説しています。
| 項目 | 堺市 | 大阪市 | 東大阪市 |
|---|---|---|---|
| 福祉施設・病院に限った「設置しない」特例 | 指導指針に定めあり | 今回確認した基準に見当たらない | 今回確認した基準に見当たらない |
| 屋外階段による個数の減少 | 審査基準の特例適用基準 | 運用基準の特例基準 | 今回確認した基準に見当たらない |
| 国の規則第26条第5項 | 3市とも同じ(国の基準) | 3市とも同じ(国の基準) | 3市とも同じ(国の基準) |
違うのは、国の条件を超えて令第32条を使う目安を、福祉施設と病院について市が文書で示しているかどうかです。
堺市の上乗せの例は、堺市の6階以上の避難器具の記事でも解説しています。
大阪市や東大阪市では、国の規則で判断することになりそうですね。
はい、公開資料の範囲では国の第2号が基本です。
建てる市の基準を必ず確かめましょう。
よくある質問
まとめ
バルコニーの幅と階段の数を図面で確かめて、入居室の区画も整理します。
そのうえで所轄の消防署に相談します!
早めに根拠が決まれば、避難器具の設置や点検の手間も見通せます。
㈱防災屋でもご相談を承っております。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 堺市消防局「堺市消防同意・消防用設備等審査基準」(第二十二版)第1章 総則(運用上の留意事項・凡例)・第2章 第2節 第2 社会福祉施設及び病院等に係る指導指針(2 適用範囲、3(2)ア(イ)、3(3)ア・イ(ア)・ク(ア))・第3章 避難器具(特例適用基準) https://www.city.sakai.lg.jp/kurashi/bosai/shobo/shokai/reiki/kijyun/index.html
- 大阪市消防局「消防用設備等の設置に係る運用基準」第3章 避難設備 避難器具 第8 特例基準 https://www.city.osaka.lg.jp/shobo/page/0000350878.html
- 東大阪市 消防用設備等の運用基準(避難器具 11 特例基準) https://www.city.higashiosaka.lg.jp/0000041303.html
- 消防法施行令第25条第1項第1号・第2項第1号、第32条
- 消防法施行規則第26条第5項
- 建築基準法施行令第114条第2項
※本記事は公表されている法令および各市の公開資料に基づく一般的な解説です。運用基準や審査基準は改正されることがあるため、最新の内容は管轄の消防署・消防局で確認してください。個々の建物で避難器具を設置しないことができるかの判断は、所轄消防署にご確認ください。





