敷地の広い大きな建物や、高さ31メートルを超える大規模な建物には消防用水の設置が求められます。
必要な水量は消防法施行令の計算式で決まり、建物が大きくなるほど20立方メートル単位で増えていきます。
ところが鈴鹿市消防本部の審査基準には、条件を満たす耐火建築物なら計算が80立方メートルを超えても80立方メートルで足りるとする決まりがあります。
この記事では鈴鹿市の決まりを入口に、その元になった昭和39年の通知と、埼玉県央広域・四日市市・津市・大阪市・堺市の基準を並べて比べます。
鈴鹿市の駅前で大きな事務所ビルを建てる計画があり、消防用水の計算をしたら160立方メートルになりました。
この量をそのまま地下に貯めないといけないのでしょうか。
鈴鹿市では、防火地域か準防火地域の中にある耐火建築物なら80立方メートルで足りるという扱いがあります。
ただし店舗や工場や倉庫などの用途は外されています。
ほかの市でも同じように80立方メートルで止められるのですか。
埼玉県央広域にも似た決まりがありますが、対象の建物が違います。
政令の計算式から順に見ていきましょう。
- 消防法施行令第27条第3項第1号は、床面積や延べ面積を表の面積で割った数に20立方メートルを掛けて水量を出すと定めるだけで、上限は置いていません
- 鈴鹿市は防火地域か準防火地域の中の耐火建築物について、政令第32条を適用して80立方メートルで足りるものとしています
- 鈴鹿市の扱いからは(4)項・(12)項・(14)項と、それらの用途が過半を占める(16)項が外されています
- 埼玉県央広域は高さ31メートル超・延べ25,000平方メートル以上の建物に限り、防火地域か準防火地域の中なら80立方メートルで足りるとすることができるとしています
- 四日市市・津市・大阪市・堺市の審査基準には80立方メートルの上限の決まりが見当たらないので、建てる場所の消防本部の基準を確かめます
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目次
消防用水の量は国の基準でどう決まるのか

建物が2種類に分かれ、それぞれ割る面積が違います。
一 別表第一(一)項から(十五)項まで、(十七)項及び(十八)項に掲げる建築物で、その敷地の面積が二万平方メートル以上あり、かつ、その床面積が、耐火建築物にあつては一万五千平方メートル以上、準耐火建築物にあつては一万平方メートル以上、その他の建築物にあつては五千平方メートル以上のもの(次号に掲げる建築物を除く。)
二 別表第一に掲げる建築物で、その高さが三十一メートルを超え、かつ、その延べ面積(地階に係るものを除く。以下この条において同じ。)が二万五千平方メートル以上のもの
(第二項略)
3 (略)
一 消防用水は、その有効水量(略)の合計が、第一項第一号に掲げる建築物にあつてはその床面積を、同項第二号に掲げる建築物にあつてはその延べ面積を建築物の区分に従い次の表に定める面積で除した商(一未満のはしたの数は切り上げるものとする。)を二十立方メートルに乗じた量以上の量となるように設けること。
第1項第1号の建物は床面積を、耐火建築物なら7,500平方メートル、準耐火建築物なら5,000平方メートル、その他の建築物なら2,500平方メートルで割ります。
第1項第2号の高さ31メートルを超える建物は、地階を除く延べ面積を12,500平方メートルで割ります。
割った数の端数を切り上げ、20立方メートルを掛けた量が必要な水量で、建物が大きくなればそのぶん水量も増えていきます。
たとえば延べ100,000平方メートルの高層ビルなら、100,000÷12,500=8で、8×20=160立方メートルになります。
- 施行令第27条第1項第1号・第2号で、消防用水が要る建物が決まる
- 同条第3項第1号の表で、建物の区分ごとに割る面積が決まる
- 割った数の端数を切り上げて20立方メートルを掛けた量以上を貯める
- 政令にはここに上限が無いので、上限を置くかどうかは各消防本部の扱いになる
政令どおりに計算すると、大きなビルほど水槽がどんどん大きくなるのですね。
そうです、政令には上限がありません。
まず建物が第1号と第2号のどちらに当たるかを図面で確かめましょう。
鈴鹿市はどんな建物なら80立方メートルで足りるとしているのか

条件と外す用途が、ひとつの文にまとめて書かれています。
防火地域又は準防火地域内に建築される次に掲げる防火対象物を除き、その構造が耐火建築物の場合は、政令第32条の規定を適用して、政令第27条第3項第1号の規定により、その有効水量の合計が80㎥を超える場合であっても、80㎥で足りるものとして取り扱う。
⑴ ⑷項に掲げる防火対象物
⑵ ⑿項に掲げる防火対象物
⑶ ⒁項に掲げる防火対象物
⑷ ⒃項(上記⑴から⑶までに掲げる防火対象物の用途に供される部分が過半を占めるものに限る。)に掲げる防火対象物
建物が防火地域か準防火地域の中にあり、耐火建築物で、外された用途に当たらなければ、計算が80立方メートルを超えても80立方メートルで足ります。
外されているのは(4)項の百貨店・店舗など、(12)項の工場など、(14)項の倉庫と、それらの用途が過半を占める(16)項の複合用途です。
根拠は政令第32条で、消防長又は消防署長が政令の基準によらなくても被害を最少限度に止められると認めるときは適用しないという特例を、条件つきであらかじめ使う形になっています。
この項目に▲や●の印は無いので、鈴鹿市の凡例では行政指導ではなく法令基準の扱いです。
- 施行令第27条第3項第1号で必要な水量を計算する
- 建てる場所が防火地域か準防火地域の中かを確かめる
- 建物の構造が耐火建築物かを確かめる
- 用途が(4)項・(12)項・(14)項か、それらが過半の(16)項でないかを確かめる
- 全部当てはまれば、鈴鹿市では政令第32条を適用して80立方メートルで足りるものとして扱う
うちのビルは事務所なので、駅前の防火地域なら当てはまりそうです。
まず都市計画の地域指定を市の都市計画図で確かめましょう。
下の階に店舗が多く入る計画なら、用途の割合も計算しておきます。
80立方メートルの上限はどこから来たのか

高さ31メートルを超える建物に消防用水を求めることになったときの通知です。
2 高さ31メートルをこえる建築物に設置する消防用水の有効水量の合計は、当該建築物の延べ面積(地階に係るものを除く。)を12,500平方メートルで除した数を20立方メートルに乗じた量以上の水量となるように設けること。しかしながら、防火地域及び準防火地域内に設置される建築物については、その構造が耐火構造、簡易耐火構造又は防火構造であり、延焼拡大防止に多大の考慮が払われていることにかんがみ、これらの地域内にある建築物に設けるべき消防用水が上記2の計算により、80立方メートルをこえる場合は、運用上80立方メートルをもつて足りるものとして取り扱われたい。(以下略)
通知は、防火地域と準防火地域の建物は延焼を防ぐ構造になっていることを理由に、高さ31メートルを超える建物の水量を運用上80立方メートルで足りるとしていました。
通知は地域内の建物の構造(耐火構造・簡易耐火構造・防火構造)を理由に挙げていましたが、鈴鹿市の基準は耐火建築物に限り、さらに4つの用途を外しています。
通知の続きには冷暖房用水を消防用水として数えることや、屋外消火栓1個を20立方メートルに換算することも書かれていますが、鈴鹿市はこれを(参考)として載せているだけで、本文の基準には書いていません。
むしろ同じ第17の水源の項目では、他の消火設備の水源とは原則として併用しないとしているので、換算で水槽を小さくできると考えずに協議で確かめます。
- 昭和39年の通知で、高さ31メートルを超える建物の水量は延べ面積÷12,500平方メートルで計算することになった
- 同じ通知が、防火地域と準防火地域の中の建物は運用上80立方メートルで足りるとした
- 鈴鹿市はこれを政令第32条の適用として審査基準に取り込み、耐火建築物に絞って4つの用途を外した
- 通知にある冷暖房用水や屋外消火栓の換算は、鈴鹿市の本文の基準には入っていない
つまり古い国の通知を、鈴鹿市が条件を絞って使っているということですね。
はい、通知の全部をそのまま使っているわけではありません。
空調の水槽を数に入れたいときは、計画の段階で消防本部に聞きましょう。
埼玉県央広域の80立方メートルとはどこが違うのか

ただし、対象にする建物の決め方が鈴鹿市と違います。
⑵ 政令第27条第1項第2号に掲げる防火対象物で防火地域または準防火地域内に建築されるものは、政令第27条第3項第1号の規定による有効水量の合計が80㎥を超える場合であっても、80㎥で足りるものとして取り扱うことができる。(昭和39年7月20日自消乙予発第9号)
埼玉県央広域の決まりは第27条第1項第2号の建物、つまり高さ31メートル超・延べ25,000平方メートル以上の建物に限られ、構造や用途の条件はありません。
鈴鹿市の文面には第2号に限るという言葉が無く、耐火建築物と用途で絞っているので、第1号の大きな敷地の建物にも当てはまると読めます。
書きぶりも、鈴鹿市が政令第32条を適用して「取り扱う」としているのに対し、埼玉県央広域は「取り扱うことができる」で、政令第32条の語はありません。
同じ建物でも、鈴鹿市と埼玉県央広域で結論が分かれる場面があるので、計算例で比べます。
| 計算例(いずれも耐火建築物) | 政令どおりの水量 | 鈴鹿市 | 埼玉県央広域 |
|---|---|---|---|
| 高さ31メートル超・延べ100,000平方メートルの事務所ビル(防火地域) | 100,000÷12,500=8→160立方メートル | 80立方メートル | 80立方メートルにできる |
| 同じ規模の百貨店((4)項・防火地域) | 160立方メートル | 160立方メートル((4)項は外される) | 80立方メートルにできる |
| 敷地25,000平方メートル・床面積37,500平方メートルのホテル(第1項第1号・準防火地域) | 37,500÷7,500=5→100立方メートル | 80立方メートル(文面からの読み) | 100立方メートル(第2号の建物ではない) |
| 延べ100,000平方メートルの事務所ビルで防火地域・準防火地域の外 | 160立方メートル | 160立方メートル | 160立方メートル |
百貨店だと、鈴鹿市では上限が使えず、埼玉県央広域では使える余地があるのですね。
埼玉県央広域は「できる」という書き方なので、必ず80立方メートルになるとは限りません。
どちらの市でも計算書を持って事前に相談しましょう。
四日市市や大阪市など他の消防本部にも上限はあるのか

上限の代わりに、水量の数え方に独自の決まりを置いている本部があります。
イ 水源水量
水量は、政令第27条第3項第1号及び第2号の規定によるほか、次によること。
(ア)水源は、他の消火設備とは使用方法が異なることから併用しないこと。★
(ウ)防火対象物の一部に危険物施設を含む場合の水源水量の算出にあっては、危険物施設を除いた部分の面積により算出すること。
四日市市・津市・大阪市・堺市の基準には、80立方メートルで足りるとする決まりも昭和39年の通知の引用も見当たりません。
大阪市は逆に、1個の消防用水の有効水量を40立方メートル以上とし、政令の20立方メートルより大きな単位を求めています(見出しに◆=行政指導)。
堺市は危険物施設の部分を除いた面積で水量を計算するとし、他の消火設備の水源とは併用しないとしています(★=堺市消防局の指導)。
四日市市も屋内消火栓設備の基準を準用する形で消防用水とは併用しないと書いていて、併用しない扱いは鈴鹿市・埼玉県央広域と共通です。
| 消防本部 | 80立方メートルの上限 | 水量に関する独自の決まり |
|---|---|---|
| 鈴鹿市 | 防火地域・準防火地域の中の耐火建築物((4)項・(12)項・(14)項などを除く)は政令第32条を適用して80立方メートルで足りる(無印) | 他の消火設備の水源とは原則として併用しない |
| 埼玉県央広域 | 第27条第1項第2号の建物で防火地域・準防火地域の中なら80立方メートルで足りるとすることができる(無印) | 他の消火設備の水源とは原則として併用しない・開発行為の防火水槽と兼ねるときは加算不要 |
| 四日市市 | 記載なし | 屋内消火栓設備の基準を準用し、消防用水とは併用しない |
| 津市 | 記載なし | 水量の数え方に関する独自の決まりなし |
| 大阪市 | 記載なし | 1個の消防用水の有効水量は40立方メートル以上(◆) |
| 堺市 | 記載なし | 併用しない(★)・危険物施設の部分を除いた面積で計算(無印) |
四日市市で同じビルを建てたら、160立方メートルのままなのでしょうか。
審査基準に上限が無い以上、政令どおりの水量が出発点になります。
隣の市の扱いを当てにせず、建てる場所の消防本部で確かめましょう。
よくある質問
まとめ
地域指定と用途を確かめて、鈴鹿市の基準で水槽の大きさを計算し直してみます!
計算書を添えて事前協議しておくと安心です。
㈱防災屋でもご相談を承っております。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 消防法施行令第27条・第32条
- 昭和39年7月20日 自消乙予発第9号(鈴鹿市の審査基準 第4章 第17 1に(参考)として掲載されたもの)
- 鈴鹿市消防本部「鈴鹿市消防用設備等に関する審査基準」第4章 第17 消防用水 1・3⑶ 鈴鹿市「消防用設備等に関する審査基準」のページ
- 埼玉県央広域消防本部「埼玉県央広域消防本部消防用設備等に関する審査基準」第4章 第17 消防用水 1・3⑶ 埼玉県央広域消防本部「消防用設備等に関する審査基準」のページ
- 四日市市消防本部「四日市市消防同意事務審査基準」第17 消防用水 3(1)・第2 屋内消火栓設備 1 四日市市消防本部「審査基準・告示・ガイドライン」のページ
- 津市消防本部「津市予防事務審査検査基準」5-18 消防用水 津市消防本部「予防関係審査基準」のページ
- 大阪市消防局「消防用設備等の設置に係る運用基準」第4章 消防用水 第2 水源 https://www.city.osaka.lg.jp/shobo/page/0000350878.html
- 堺市消防局「堺市消防同意・消防用設備等審査基準」第19 消防用水 Ⅱ 細目 1(2) https://www.city.sakai.lg.jp/kurashi/bosai/shobo/shokai/reiki/kijyun/index.html
※本記事は各消防本部が公開している審査基準・運用基準と法令に基づく一般的な解説です。運用基準・条例は改正されることがあるため、最新の内容は管轄の消防署・消防本部で確認してください。防火地域・準防火地域の指定は各市の都市計画で確かめてください。行田市・羽生市は審査基準を公開していないため比較に含めていません。凡例の記号(▲・●・◆・★)の意味は各本部の凡例に従っており、同じ記号でも本部によって意味が異なります。





