防火管理者として特定建築物定期調査の結果報告書を受け取ったとき、「なぜこの項目は要是正で、あの項目は指摘なしになったのか」と疑問に思ったことはないでしょうか。
調査員は第2編の各論にある個別の劣化診断項目を、思いつきの順番でチェックしているわけではありません。
増改築の履歴確認・防火や避難構造への重点配分・現行基準に満たない部分(既存不適格)の扱い方という、共通の「調査方針」に沿って判断しています。
この記事では、個別の調査項目の裏側にある判定の考え方そのものを解説します
調査報告書の「要是正」と「指摘なし」の違いが、正直よく分かっていませんでした。
調査員は思いつきで判定しているわけではありません。
あらかじめ決められた調査方針に沿って、一つひとつ判断しています。
増改築した部分だけでなく、建物全体を見て判断しているということですか。
そのとおりです。
そこにはもうひとつ、既存不適格という考え方も関わってきます。
- 調査は増築・改築・用途変更等の履歴確認から始まり、建物全体としての安全性を重点に実施されます。
- 法令が特に重視するのは防火・避難・構造安全に関する事項で、耐久性に関する事項は任意調査項目として別途扱われます。
- 現行基準に満たない部分があっても直ちに違反にはならず、既存不適格として改善を促す形で扱われます。
- 調査結果は所有者への助言と特定行政庁への報告の両方に使われます。
- 調査項目・方法・判定基準は平成20年国土交通省告示第282号に定められており、建物の規模によって扱いが分かれる場合があります。
▼

目次
なぜ増築や用途変更の履歴を重点的に確認するのか

増築や用途変更があった場合、その履歴そのものが調査の出発点になります。
増築・改築・用途変更等の履歴があれば、当時の設計図書と現況を突き合わせて確認します。
これは、増築部分だけを個別に見ても、建物全体としての安全性が保たれているかどうかは判断できないためです。
実際の調査では、増築部分と既存部分の取り合い(接続部分)に劣化や不具合が集中しやすいことも知られています。
防火管理者としては、増改築や用途変更の記録を日頃から整理しておくことが、調査をスムーズに進める第一歩になります。
うちのビルも一部増築しているので、当時の図面を今すぐ確認しておきます。
ぜひお願いします。
検査済証があれば増築時期もすぐ分かるので、一緒に準備しておくと調査がスムーズになりますよ。
防火・避難・構造安全になぜ重点が置かれるのか

建築基準法が人身事故につながる分野を特に重視しているため、調査もそこに重点が置かれます。
法令が要求する事項のうち、人身事故に直結するものから優先して調査するという考え方が背景にあります。
一方、劣化の進み方など耐久性に関する事項は、法令上の明示的な規定が少ないため、任意調査項目として別枠で扱われます。
任意調査項目は義務ではありませんが、安全性にもつながる内容が多く含まれています。
防火管理者としては、指摘なしの項目でも、任意調査項目の結果まで含めて目を通しておくことをおすすめします。
うちは指摘なしの結果しか見ていなかったのですが、任意調査の欄も見た方がいいんですね。
はい、そこには法令の義務ではなくても
安全性に関わる気づきが書かれていることがありますので、ぜひ目を通してみてください。
現行基準に満たない部分はどう判断されるのか

これをどう扱うかにも、調査方針としての考え方があります。
建てられた当時は適法だった部分に、その後の法改正で新しい基準が課された場合、既存不適格として扱われ、改正後の規定は適用されません。
ただし、現行法規は安全性の最低限を示す物差しであるため、実態との差が大きい部分は改善が望ましいとされています。
調査員は既存不適格をそのまま放置してよいとは判断せず、改修時に合わせて改善することなどをアドバイスします。
報告書に既存不適格の記載があっても、まずは是正の緊急度を調査員や㈱防災屋に確認することが大切です。
既存不適格と言われても、今すぐ直さないといけないのか分かりませんでした。
既存不適格自体はすぐの是正義務ではありませんが
改修のタイミングで直すのが望ましいので、詳しくは㈱防災屋にご相談ください。
調査結果は何のために使われるのか

所有者への説明と、特定行政庁への報告という二つの役割があります。
調査員はまず所有者や管理者に調査結果を説明し、改善が必要な箇所への理解を得ます。
そのうえで、報告書等をとりまとめ、特定行政庁への報告という法令上の手続きを行います。
この二段階があることで、調査結果が書類上の記録にとどまらず、実際の維持保全に結びつきやすくなります。
防火管理者としては、報告後も所有者側の改善状況を把握し続けることが、次回調査への備えにもなります。
報告して終わりだと思っていましたが、まず自分たちへの説明があるんですね。
そうです。
説明を受けた内容は、次の点検や修繕の計画にもそのまま活かせますよ。
判定基準はどんな仕組みで定められているのか

建物の規模によって、扱いが分かれる仕組みも用意されています。
具体的には平成20年国土交通省告示第282号の別表に、調査項目・調査方法・要是正の判定基準が一覧で示されています。
さらに、建築基準法施行令第14条の2第2号に規定する事務所等のうち、階数が4以下又は延べ面積が1,000㎡以下の小規模な建築物には、別途簡略化した基準が用意されています。
これは、規模の小さな建物にまで大規模建築物と同じ密度の調査を一律に求めると、かえって実務が回らなくなるためと考えられます。
自分の建物がどちらの基準に当てはまるかは、調査を依頼している調査員や㈱防災屋に確認しておくと安心です。
うちの建物が大きい基準と小さい基準、どちらに当てはまるのか分かっていませんでした。
調査を依頼している事業者に聞けばすぐ分かりますので
次回の調査のタイミングで確認してみてください。
よくある質問
まとめ
調査方針が分かったので報告書の読み方が変わりそうです!
こちらこそ、判断の背景まで知っていただけて嬉しいです。
㈱防災屋でもご相談を承っております。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 建築基準法第3条第2項・第8条第1項・第12条第1項
- 建築基準法施行規則第5条第2項
- 建築基準法施行令第14条の2第2号
- 平成20年国土交通省告示第282号
※本記事は建築基準法・同施行令・同施行規則及び関連告示の現行規定に基づく一般的な解説です。個別の建築物における判定は、実際の調査結果や特定行政庁の運用によって異なる場合があります。詳細は調査を依頼している建築物調査員、または所轄の特定行政庁にご確認ください。





