雑居ビルの飲食店で大きな火災が起きると、同じビルに入るお店の経営者やビルの持ち主は「うちは大丈夫か」と落ち着かなくなるのではないでしょうか。
平成21年11月22日の朝、東京都杉並区の雑居ビルの飲食店で火災があり、消防庁予防課長は同じ日に、消防予第505号で全国の消防へ防火安全対策の徹底を求めました。
この通知は、5日前の浜松市のマージャン店火災に続くもので、新しい義務を作る法令ではなく、火災の原因も分かっていない段階で出されています。
この記事では、通知が出された理由、対象、求めた内容、読むときの落とし穴、確認手順を、通知と現行の条文をもとに解説します。
雑居ビルで火災があると、同じビルのお店も心配になります。
国は、そのとき何を求めるのですか。
消防庁は火災と同じ日に、防火安全対策の徹底を求める通知を出しました。
まず、通知の文面を確かめましょう。
前にあったマージャン店の火災の通知と、同じものですか。
続けて出された別の通知です。
違いも含めて、順番に整理します。
- 消防庁予防課長は平成21年11月22日の消防予第505号で、立入検査や各種防火指導等の機会を通じて、事業所等における防火意識の向上を図るよう消防機関に求めました。
- 通知に添付された第4報(11月22日20時30分現在)では、死者4人、負傷者12人とされ、火災原因は詳細調査中でした。
- 通知は、浜松市のマージャン店火災に続いて店舗等の火災が相次いだと述べ、消防法令違反が認められた場合は違反処理規程等に基づき迅速に是正措置を講じるよう求めています。
- 建物は(16)項イの特定複合用途で、最新の立入検査は平成20年12月12日の階段等共用部分の立入検査で、違反指摘なしと記されていますが、通知は、この検査結果と火災との関係を述べていません。
- 現行の政令は、(16)項イの建物のうち地階を除く階数が3以上で収容人員が30人以上のものに、統括防火管理者を定めるよう求めています(令第3条の3第2号)。
▼
目次
消防庁はなぜ雑居ビルの飲食店の火災と同じ日に通知を出したのか

まず、通知の書き出しで経緯を確かめます。
本日発生した東京都杉並区の雑居ビル内の飲食店における火災によって、死者4人、負傷者12人の被害が発生しました(別添参照)。(略)去る17日に発生した浜松市のマージャン店火災においても死者4人、負傷者3人の被害が発生したところであり、多数の人的被害を伴う店舗等における火災が相次いで発生しております。
宛先は、各都道府県消防主管部長、東京消防庁、政令指定都市消防長です。
通知には、消防庁がまとめた火災の第4報(平成21年11月22日20時30分現在)が別添として付いています。
別添の火災原因の欄は「詳細調査中」で、通知の時点では原因が分かっていません。
なお、別添は建物名や住所も記していますが、この記事では載せません。
| 項目 | 別添(第4報)の内容 |
|---|---|
| 火災の日時 | 平成21年11月22日、覚知は9時13分、鎮圧は10時28分、鎮火は11時23分 |
| 被害 | 死者4人(いずれも男性)、負傷者12人(重篤1人、中等症3人、軽症8人) |
| 建物の用途 | 特定複合用途(消防法施行令別表第一(16)項イ) |
| 建物の規模 | 耐火造、地上5階・地下2階、延べ面積1,030平方メートル、部分焼(2階の焼損床面積130平方メートル) |
| 階ごとの用途 | 5階は飲食店、4階はマージャン店、3階はキャバクラ、2階と1階は飲食店、地下1階と地下2階はライブハウス |
| 消防用設備等 | 消火器、自動火災報知設備、誘導灯、避難器具 |
| 火災原因 | 詳細調査中 |
被害が大きく、しかも続けて起きていたのですね。
はい。
店舗等の火災が相次いだことが、通知の出発点です。
通知の対象になる「事業所等」とはどんな建物なのか

令別表第一の用途区分と合わせて確かめます。
複合用途防火対象物のうち、その一部が(一)項から(四)項まで、(五)項イ、(六)項又は(九)項イに掲げる防火対象物の用途に供されているもの
別添は、火災のあった建物の用途を特定複合用途の(16)項イと記しています。
同じビルに飲食店やマージャン店など、いくつもの店が入る建物は、この区分になることがあります。
ただし、どこまでが「事業所等」にあたるかは、通知に書かれていません。
| 項目 | 通知や別添での扱い |
|---|---|
| 火災のあった建物の用途 | 特定複合用途(令別表第一(16)項イ)と記載 |
| 建物の規模 | 耐火造、地上5階・地下2階、延べ面積1,030平方メートル |
| 通知の書き出し | 雑居ビル内の飲食店における火災 |
| 防火意識の向上を求める相手 | 事業所等。範囲は通知に書かれていない |
うちのビルは飲食店ではなく、普通のオフィスや店舗ですが、関係ありますか。
通知は、相手を「事業所等」と広く書いています。
まず、自分の建物の用途を確かめてください。
通知は消防機関にどんな対応を求めたのか

通知の後半の文章で確かめます。
各消防機関においては、これを踏まえ、立入検査や各種防火指導等の機会を通じて、事業所等における防火意識の向上を図り、また、消防法令違反が認められた場合には違反処理規程等に基づき迅速に是正措置を講じるなど、防火安全対策のより一層の徹底を図られるようお願いします。各都道府県においては、貴都道府県内の市町村に対してこの旨周知をお願いします。
一つ目は、立入検査や各種防火指導等の機会を通じて、事業所等の防火意識の向上を図ることです。
二つ目は、消防法令違反が認められた場合に、違反処理規程等に基づいて迅速に是正措置を講じることです。
三つ目は、都道府県が、それぞれの都道府県内の市町村へこの旨を周知することです。
5日前の消防予第497号は「類似の危険性を有する防火対象物に対する防火安全指導」と書いていて、対象の書き方が違います。
| 求め | 通知の言葉 | 誰への求めか |
|---|---|---|
| 防火意識の向上 | 立入検査や各種防火指導等の機会を通じて、事業所等における防火意識の向上を図り | 各消防機関 |
| 迅速な是正措置 | 消防法令違反が認められた場合には違反処理規程等に基づき迅速に是正措置を講じる | 各消防機関 |
| 市町村への周知 | 貴都道府県内の市町村に対してこの旨周知 | 各都道府県 |
指導するだけでなく、違反があれば是正まで求めているのですね。
そのとおりです。
ただし、通知は消防機関あてに出されています。
通知を読むときに見落としやすいのはどこか

通知の性格、原因の扱い、立入検査の記載、統括防火管理者の対象です。
別表第一(一)項から(四)項まで、(五)項イ、(六)項イ、ハ及びニ、(九)項イ並びに(十六)項イに掲げる防火対象物(略)のうち、地階を除く階数が三以上で、かつ、収容人員が三十人以上のもの
高層建築物(略)その他政令で定める防火対象物で、その管理について権原が分かれているもの(略)の管理について権原を有する者は、(略)これらの防火対象物の全体について防火管理上必要な業務を統括する防火管理者(略)を協議して定め
通知の末尾には、消防組織法第37条の規定に基づく助言として発出すると書かれています。
二つ目は、別添が第4報で、火災の原因が詳細調査中だった点です。
三つ目は、別添の最新の立入検査の欄に、平成20年12月12日の「階段等共用部分の立入検査:違反指摘なし」と書かれている点で、通知はこの検査結果と火災との関係を述べていません。
四つ目は、複合用途の建物の統括防火管理者が、建物全体の階数と収容人員で決まる点です。
別添には収容人員の記載がないので、この建物が統括防火管理者の対象だったかどうかは、通知だけでは分かりません。
| 見落としやすい点 | 通知や条文の書き方 | 確認のしかた |
|---|---|---|
| 通知の性格 | 消防組織法第37条の規定に基づく助言 | 新しい義務ではなく、既存の義務を確かめる機会と読む |
| 火災原因 | 詳細調査中(別添は第4報) | 原因を断定した説明をしない |
| 立入検査の記載 | 平成20年12月12日、階段等共用部分の立入検査、違反指摘なし | 共用部分の検査の記載で、火災との関係は通知に書かれていないと押さえる |
| 統括防火管理者 | 令第3条の3第2号は(16)項イを、地階を除く階数3以上・収容人員30人以上と定める | 自分の建物の階数と収容人員を確かめる |
共用部分の検査で違反の指摘がなくても、火災は起きたということですね。
通知は、その検査結果と火災の関係を述べていません。
書かれたことだけを読みましょう。
明日からなにを確認すればよいのか

そこで、通知と条文から、確認したい点を五つに整理します。
立入検査や各種防火指導等の機会を通じて、事業所等における防火意識の向上を図り、また、消防法令違反が認められた場合には違反処理規程等に基づき迅速に是正措置を講じる
次の手順は通知に書かれた義務ではなく、通知と条文を踏まえた実務上のおすすめです。
個別の適否は、所轄の消防署で確かめてください。
- 自分のビルが令第1条の2第3項や第3条の3の対象か、用途と階数と収容人員から確かめ、対象なら防火管理者と統括防火管理者を定めて所轄の消防署へ届け出ているか見直す
- 消火器、自動火災報知設備、誘導灯、避難器具が、必要な場所すべてにあり、正常に使えるかを実際に見て回る
- 階段や廊下などの共用部分に物を置いていないか、テナントごとに任せず建物全体で確かめる
- 営業時間中も閉店後も、避難の通路と避難口がふさがれていないか確かめる
- 不明な点は、消防の指導を待たずに所轄の消防署へ相談する
まず、うちが統括防火管理者の対象かどうかを確かめます。
それが入り口です。
用途と階数と収容人員から見てください。
よくある質問
まとめ
統括防火管理者が必要かから、確かめます!
防火管理者の選任と消防用設備等の点検の見直しは、㈱防災屋でもご相談を承っております。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 消防予第505号「雑居ビル内の飲食店における火災を踏まえた防火安全対策の徹底について」(平成21年11月22日 消防庁予防課長)別添「杉並区雑居ビル火災(第4報)」
- 消防法(昭和23年法律第186号)第8条、第8条の2 e-Gov法令検索
- 消防法施行令(昭和36年政令第37号)別表第一(16)項イ、第1条の2、第3条の3 e-Gov法令検索
※本記事は公表されている法令および消防庁の通知に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。





