住宅用火災警報器の設置は、消防法令に基づく義務です。
それでも設置率が伸びない地域は、今も残っています。
消防庁は令和8年6月8日、設置率の向上に成果を上げた消防本部の優良事例を、都道府県や消防本部へ通知しました。
この記事では、その中から沖縄県糸満市・青森県つがる市・岐阜県下呂市の3事例を取り上げ、何をしたのかを整理します。
設置が進まない地域では、どんな工夫をしているのでしょうか。
消防庁が、成果を上げた取組を全国に共有しています。
その中身を順に見ていきましょう。
通知には、地域の実情に合わせた創意工夫が並んでいます。
まずは、通知が出た理由から確認します。
この記事の結論
- 令和8年6月8日の通知(消防予第205号)は、住宅用火災警報器の設置促進と維持管理の優良事例を消防本部へ共有するものです。
- 背景は、令和6年中の住宅火災による死者数が1,030人で、令和3年以降増加していることです。
- 糸満市は「住警器の歌」、つがる市はチラシや講習会と寄贈品の設置支援、下呂市は補助制度の活用と取付けサービスで取り組みました。
- 下呂市は、設置率が約80パーセントでも条例適合率が約40パーセントで、台所だけでよいという認識を正すことから始めました。
- 建物の関係者は、まず就寝の用に供する居室と階段に付いているか、設置から10年がたっていないかを確認します。
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消防庁はなぜ設置促進の優良事例を全国に共有したのか
通知は、住宅火災の死者数の増加から書き始めています。
まず、その原文を確認します。
(住宅用火災警報器の設置促進及び維持管理に係る優良事例の展開について 令和8年6月8日消防予第205号 消防庁予防課長)一方、令和6年中の住宅火災による死者数(放火自殺者等を除く。)は1,030人と令和3年以降増加しており、消防研究センターによる住宅火災死者数の将来推計(別添)においては、今後も死者数の増加が懸念されており、住宅用火災警報器の設置及び適切な維持管理の推進については、全国的に見てもなお一層の取組が求められる状況にあります。
消防法第九条の二 住宅の用途に供される防火対象物(略)の関係者は、次項の規定による住宅用防災機器(略)の設置及び維持に関する基準に従つて、住宅用防災機器を設置し、及び維持しなければならない。2 住宅用防災機器の設置及び維持に関する基準その他住宅における火災の予防のために必要な事項は、政令で定める基準に従い市町村条例で定める。
消防法施行令第五条の七第一項第一号 住宅用防災警報器又は住宅用防災報知設備の感知器は、次に掲げる住宅の部分(略)に設置すること。イ 就寝の用に供する居室(略) ロ イに掲げる住宅の部分が存する階(避難階を除く。)から直下階に通ずる階段(屋外に設けられたものを除く。)
通知の出発点は、令和6年中の住宅火災による死者数が1,030人で、令和3年以降増えていることです。
消防研究センターの将来推計でも、今後の
死者数の増加が懸念されると書かれています。
設置と維持は、法第9条の2で
関係者の義務とされ、具体的な基準は市町村条例で定められます。
政令は条例の基準として、感知器を
就寝の用に供する居室と、その階から直下階に通ずる階段などに付けるよう定めています。
通知はこうした状況を受け、各地域の取組の参考として、近年の優良事例を共有・展開するとしています。
死者数が増える中で、取組の後押しが必要だからです。
次は、最初の事例を見ていきましょう。
設置率が最下位の沖縄で歌は何を変えたのか
最初の事例は、沖縄県糸満市消防本部の取組です。
通知では、消防庁長官賞を受けた事例として紹介されています。
(住宅用火災警報器の設置促進及び維持管理に係る優良事例の展開について 令和8年6月8日消防予第205号 消防庁予防課長)そもそも、沖縄県は住宅用火災警報器の設置率が全国と比べても著しく低く、平成23年から令和7年までの間(平成24~26年のワースト2位除く。)全国最低の設置率である(11年連続最下位)。
(住宅用火災警報器の設置促進及び維持管理に係る優良事例の展開について 令和8年6月8日消防予第205号 消防庁予防課長)当市において動画を公開して設置した世帯は一か月で280件増えており、当市の住宅用火災警報器の設置率向上において、効率的に機能したと言える。
糸満市消防本部は、職員のバンドで作った「住警器の歌」を広報の中心に据えました。
背景には、令和6年中の一般家庭の火災6件のうち、死傷者を伴うものは
すべて警報器が未設置だったという事情があります。
曲は地域のコミュニティラジオで毎朝のCMとして流し、地元の著名人が
無償で協力したプロモーションビデオも作りました。
ショート動画は公開から1週間以内に
1万回以上再生され、新聞にも大きく取り上げられたと報告されています。
成果として、動画公開後に設置した世帯が
一か月で280件増えたと、通知の事例は述べています。
関心が高まり、問い合わせが増えたと事例は書いています。
次は、青森県の取組を見ましょう。
ワースト1を逆手に取った青森県つがる市は何をしたのか
2つ目は、青森県つがる市消防本部の取組です。
設置率が県内最下位という現状を、あえて前面に出しました。
(住宅用火災警報器の設置促進及び維持管理に係る優良事例の展開について 令和8年6月8日消防予第205号 消防庁予防課長)当消防本部では、管内の住宅用火災警報器(以下「住警器」という。)の設置率が令和3年から3年連続(53%~60%)で県内最下位という深刻な状況が続いていた。令和5年には火災による死傷者数が7人(うち死者3名)と、過去10年間で最多を記録。
(住宅用火災警報器の設置促進及び維持管理に係る優良事例の展開について 令和8年6月8日消防予第205号 消防庁予防課長)県消防設備保守協会から寄贈された住警器40個を市社会福祉協議会と連携し、高齢者単身世帯へ直接設置する活動を展開。消防職員が訪問して設置を支援することで、確実な普及を図った。
(住宅用火災警報器の設置促進及び維持管理に係る優良事例の展開について 令和8年6月8日消防予第205号 消防庁予防課長)令和6年の住警器設置率は68%に向上し、高齢者世帯を中心に設置率が約15%増加した。
つがる市は、広報・自治会・高齢者世帯・地元事業者を組み合わせて動きました。
設置率が最下位だったことを強調したチラシを市内全域に配り、自治会総会で市内の
現状を説明して出前講座を開きました。
高齢者単身世帯には講習会を開き、全国消防機器協会から寄贈された
住宅用火災警報器100個を無料で配りました。
県消防設備保守協会から寄贈された40個は、社会福祉協議会と連携して、消防職員が高齢者単身世帯へ直接設置しています。
地元の菓子店と作った「ジューケーキ」のパッケージにも警報器のPRを入れ、
設置率は68パーセントに向上したと報告されています。
高齢者世帯には、職員が訪問して設置を支援しました。
次は、岐阜県の取組を見ていきます。
岐阜県下呂市はなぜ台所だけという認識を正そうとしたのか
3つ目は、岐阜県下呂市消防本部の取組です。
設置率の数字だけでは見えない課題から始まりました。
(住宅用火災警報器の設置促進及び維持管理に係る優良事例の展開について 令和8年6月8日消防予第205号 消防庁予防課長)当市の住宅用火災警報器の設置率は約80%であり、条例適合率は、約40%であった。市民の大多数が、台所に設置していれば良いと認識している状況であったため、他団体等と連携して設置率上昇と正しい認識を広める取組を行った。
(住宅用火災警報器の設置促進及び維持管理に係る優良事例の展開について 令和8年6月8日消防予第205号 消防庁予防課長)当市では、障がい者及び65歳以上の高齢者に、それぞれ給付事業があり、住宅用火災警報器の購入補助制度がある。しかしながら、利用実績がなかったため、担当部局と調整して積極的に広報を行い活用することとなった。
(住宅用火災警報器の設置促進及び維持管理に係る優良事例の展開について 令和8年6月8日消防予第205号 消防庁予防課長)高齢者のみの世帯で、火災対策に関心があるが、体は動きにくく、設置することが出来ないとのニーズがあったため、消防職員の設置取り付けサービスを開始した。これは、住宅用火災警報器を本人に準備していただき、消防職員が設置に行くものである。
下呂市は、令和6年5月に大きな火災が続いたことをきっかけに、設置の推進を始めました。
設置率は約80パーセントでしたが、条例適合率は
約40パーセントにとどまり、台所に付ければよいという認識が多かったと通知は述べています。
対策として、設置推進動画とパンフレットを作り、市役所職員全員への
設置状況アンケートも行いました。
購入補助制度の利用実績がなかったため、担当部局と調整して広報し、区長会議や民生委員会議などで話し合った結果、
取付けサービスが生まれました。
事例は、取組に費用がかからないものばかりだったとし、市民の心を動かすには
職員の熱意が重要だと述べています。
政令は、まず就寝の用に供する居室を挙げています。
最後に、確認することを整理しましょう。
明日から何を確認すればよいのか
通知が示しているのは、消防本部が取り組んだ事例です。
建物の関係者としては、自分の設置状況を点検することから始めます。
(住宅用火災警報器の設置促進及び維持管理に係る優良事例の展開について 令和8年6月8日消防予第205号 消防庁予防課長)適宜行っている住宅用火災警報器のアンケートの結果から、設置後10年経過している警報器が多数あることが判明したため、市内全世帯設置後の次のステップは、住宅用火災警報器の交換が必要だと考えている。
(住宅用火災警報器の設置促進及び維持管理に係る優良事例の展開について 令和8年6月8日消防予第205号 消防庁予防課長)貴職におかれましては、これらの事例のほか、設置率・条例適合率の高い消防本部における取組も適宜参考としつつ、各地域の関係機関・団体等と連携し、住宅用火災警報器の設置促進及び適切な維持管理の更なる推進が図られるようお願いします。
まず、寝室と階段の天井に警報器が付いているかを確認します。
政令が挙げる設置場所は、
就寝の用に供する居室と、その階から直下階に通ずる階段などです。
次に、設置から10年がたっていないかを見ます。下呂市の事例も、設置後10年経過した警報器の
交換を次の課題に挙げています。
購入補助制度や取付けサービスの有無は、市町村ごとに違うため、お住まいの
市町村や消防本部に問い合わせます。
通知は、消防本部が関係機関や団体と連携して進めるよう求めており、自治会や福祉の窓口も
相談先になります。
設置場所と設置年を、まず見ておきましょう。
あわせて、市町村の補助制度も確かめておきます。
よくある質問
Q優良事例と同じ取組を、どの地域でも行わなければならないのですか?
A通知は、各地域における取組の参考として事例を共有・展開するものです。同じ取組を義務づける記載はありません。
Q補助制度や取付けサービスは、どこの市町村でも使えますか?
A通知に出てくるのは、下呂市の制度です。補助制度や取付けサービスの有無は市町村ごとに異なるため、お住まいの市町村や消防本部に確認してください。
Q警報器は寝室に付いていれば足りますか?
A政令は、就寝の用に供する居室と、その階から直下階に通ずる階段を挙げています。このほかにも総務省令で定める部分があり、実際の基準は市町村条例で定められるため、所轄消防署に確認してください。
Q設置から10年たった警報器は、交換が必要ですか?
A通知の下呂市の事例は、設置後10年経過した警報器が多数あることを踏まえ、交換が次のステップだと述べています。交換の時期や方法は、製品の取扱説明書と所轄消防署の案内で確認してください。
まとめ
✔消防予第205号は、住宅用火災警報器の設置促進と維持管理の優良事例を共有する通知
✔背景は、令和6年中の住宅火災死者数が1,030人で、令和3年以降増加していること
✔糸満市は歌と動画、つがる市はチラシと寄贈品の設置支援で設置率を上げた
✔下呂市は、設置率約80パーセントでも条例適合率が約40パーセントだった
✔下呂市は補助制度の活用と取付けサービスを始めた
✔政令は、まず就寝の用に供する居室と階段に付けることを挙げている
✔まずは設置場所と設置から10年を確認する
住宅や施設の防火対策は、㈱防災屋でもご相談を承っております。
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この記事を書いた人
㈱防災屋Web編集部
元消防士、行政書士、高専卒など
防火管理者には「セルフ選任」と「プロ代行」の2択があることをもっと多くの方々に知ってもらい、世の中の防火管理レベルをもっと上げていきたい。
0にはできない火災リスクとの向き合い方を伝え、救える命を増やし、悲しみの総量を減らしたい。
後悔してからでは遅すぎる火災予防に、Webの力で取り組む㈱防災屋の編集部です。
監修・編集者
青木 俊輔
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
学歴
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
保有資格
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
主な活動
参考・出典
- 住宅用火災警報器の設置促進及び維持管理に係る優良事例の展開について(令和8年6月8日 消防予第205号 消防庁予防課長)
- 消防法(昭和23年法律第186号)第9条の2
- 消防法施行令(昭和36年政令第37号)第5条の7
※本記事は公表されている法令および消防庁の通知に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。