救急車が傷病者をどの病院へ運ぶかは、現場の救急隊員がその場で思いつきで決めているわけではありません。
消防法は、消防機関が搬送し医療機関が受け入れるための基準を都道府県があらかじめ定めることを義務づけています。
ところがこの基準を実際にどこまで守るかは、消防機関と医療機関とでまったく重さが違います。
一方には従う義務があり、もう一方には努力義務しか無いという非対称な作りになっています。
救急車が搬送する病院って、誰がどうやって決めているんですか。
現場の救急隊員の判断だけですか。
都道府県が定める実施基準というものがあります。
消防機関と医療機関、それぞれの役割が条文で分けて書かれています。
両方が同じように守る決まりなんですか。
いえ、守る重さが違います。
この記事でまとめて解説します!
- 都道府県は、傷病者の搬送及び受入れの実施に関する基準(実施基準)を定めなければなりません(消防法第35条の5第1項)
- 実施基準には医療機関を分類する基準や搬送先の選定基準など区域ごとに定める事項があります(同条第2項)
- 実施基準は医学的知見に基づき医療計画との調和を保って定められます(同条第3項)
- 都道府県は実施基準を定める前に協議会の意見を聴き、定めたら遅滞なく公表しなければなりません(同条第4項・第5項)
- 消防機関には実施基準を遵守する義務がありますが、医療機関には尊重する努力義務しかありません(第35条の7)
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目次
救急搬送の実施基準とは何を定めた基準なのか

消防法第35条の5第1項にその規定があります。
救急車を走らせる救急隊は市町村の消防機関ですが、搬送先の選び方という区域全体にかかわる基準は、都道府県がまとめて定める仕組みになっています。
目的は「迅速かつ適切な実施」であり、搬送と受入れの両方にかかわる基準だと条文に明記されています。
この条文がいう「実施基準」という言葉が、この先の条文でも繰り返し出てきます。
救急業務は市町村なのに、基準を決めるのは都道府県なんですね。
はい。
区域全体にかかわる話なので都道府県単位でまとめているんです。
実施基準にはどんな事項を定めることになっているのか

条文は定めるべき事項をかなり具体的に列挙しています。
救急隊が現場でゼロから搬送先を探すのではなく、分類と名称が事前に決まっている医療機関の中から選べるようにする仕組みです。
条文はこの他にも、消防機関が傷病者の状況を確認するための基準や、医療機関へ状況を伝達するための基準など複数の事項を列挙しています。
都道府県の区域は一括りではなく、医療提供体制の状況を考慮して区域ごとに分けて定めることも条文に明記されています。
病院ごとに役割分担があらかじめ決まっているということですね。
そのとおりです。
分類と選定の基準が先に用意されているから迅速に動けます。
実施基準はどうやって都道府県が定めるのか

手続きには歯止めが置かれています。
都道府県は、実施基準を定めるときは、あらかじめ、第三十五条の八第一項に規定する協議会の意見を聴かなければならない。(消防法第三十五条の五第四項)
協議会の構成も条文で決まっており、消防機関の職員だけでなく医療機関の管理者や指定する医師、学識経験者、都道府県の職員などが加わります。
医療機関の側も協議会に加わって意見を言えるんですね。
はい。
決めてから通知するのではなく、決める前に意見を聴く順番です。
消防機関と医療機関で実施基準の重みが違うのはなぜか

同じ実施基準でも、守る側の立場によって条文の言葉が違います。
医療機関は、傷病者の受入れに当たつては、実施基準を尊重するよう努めるものとする。(消防法第三十五条の七)
「遵守しなければならない」は守る義務そのものを定める言い方で、違反しても罰則の規定はありませんが、消防機関の内部的な職務義務として基準どおりの搬送が求められます。
一方の「尊重するよう努めるものとする」は努力義務の言い方で、医療機関が実施基準どおりに受け入れなかった場合でも、この条文を直接の根拠にして責任を問う仕組みにはなっていません。
消防機関は行政機関として基準に従う立場、医療機関は基準を踏まえつつ医学的な判断で個別に対応する立場、という違いが条文の言葉の差に表れています。
同じ基準なのに、条文の言葉がこんなに違うとは思いませんでした。
条文を数えるだけでは出てきません。
言葉の差にまで目を通しておいてください。
実施基準は誰が確認でき実務にどう役立つのか

国の援助の仕組みと、公表の義務の両方が条文に用意されています。
事業所の防火管理者としては、従業員が倒れたときに救急隊がどの医療機関を優先して選ぶのか、その振り分けの考え方が都道府県単位で公表されていることを知っておくと見通しが持てます。
変更する場合も同じ手続き(医療計画との調和・協議会の意見聴取・公表)が準用されるため、基準は固定されたものではなく見直されていくものです。
実際の内容は所轄の都道府県または消防本部に確認するのが確実です。
公表されている基準なら、事業所としても確認できますね。
はい。
都道府県や消防本部に確認しておくと安心です。
よくある質問
まとめ
消防と医療で守る重さが違うことがよく分かりました。
うちの実施基準も一度確認してみます。
義務の重さは条文の言葉で見分けてください。
遵守と努力義務の違いを知っておくと安心です。
㈱防災屋でもご相談を承っております。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 消防法第35条の5
- 消防法第35条の6
- 消防法第35条の7
- 消防法第35条の8
- 医療法第30条の4第1項
- e-Gov 法令検索
※本記事は公表されている法令および消防庁等の資料に基づく一般的な解説です。条例や運用は都道府県ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。





