建物に設けてある消防用設備は、基準が変わるたびに、すべて入れ替えなければならないのでしょうか。
ポンプを動かす装置や、感知器の配線、配管の継手など、古い設備を使い続けたい場面は、実務では何度も出てきます。
増築をするとき、設備を更新するときは、なおさらです。
消防の実務書には、こうした「今ある設備を活かせるか」を確かめた質疑応答が並んでいます。
この記事では、その中から5つの論点を取り上げ、現行の条文に照らして読みます。どこまでが認められ、どこからが認められないのかを、順に確かめます。
古い設備を、そのまま使い続けることはできますか。
できる場合があります。
ただし、認められる条件が質疑ごとに決まっています。
増築や更新のときは、どうなるんでしょう。
一つずつ確かめます。
現行の条文に当たれるところは、当たって読みます。
- 加圧送水装置の電動機の代わりに、内燃機関の非常動力装置を設けることを、床面積の合計が2,000平方メートル以下の防火対象物で令第32条を適用して認めると答えています
- 非常動力装置で足りていたスプリンクラー設備は、政令の改正で延べ面積3,000平方メートル以上に義務がかかっても、従来の非常動力装置でよいと答えています
- 特例を受けた社会福祉施設で、約200平方メートルの小規模な増築をするときは、増築部分にも特例を準用して差し支えないと答えています
- 認定を受けた可撓管継手は、加圧送水装置まわり以外の配管でも使え、配管のずれは使用軸直角変位量の範囲に収めるよう指導されています
- アナログ式に更新するとき、既設の感知器回路の配線は、断線と短絡を検出できるなどの条件を満たせば、そのまま使えると答えています
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目次
既存の設備を使い続ける質疑は、どの条文にもとづくのか
消防用設備の基準は、消防法第17条と、消防法施行令・施行規則が定めています。基準が改正されても、すでにある防火対象物の設備は、法第17条の2の5第1項により、改正前の規定のままでよいのが原則です。ただし、第2項に例外があり、政令で定める規模以上の増築や改築などは、この原則から外れます。政令が定める規模は、令第34条の2に書かれていて、増築や改築の部分の床面積の合計が1,000平方メートル以上になるか、基準時の延べ面積の2分の1以上になるものです。
さらに、令第32条は、消防長又は消防署長が、火災の発生や延焼のおそれが著しく少ないと認めるときは、その節の基準によらなくてよいと定めています。以下の5つの質疑には、この令第32条の運用にあたるものが多く含まれています。
質疑の回答は、平成5年から平成7年にかけて、消防庁の予防課が出したものです。質疑にある通知の名前や規則の条番号は、当時のものです。
加圧送水装置の電動機の代わりに、非常動力装置を使えるのか

停電したときに備えて、非常電源を設けるのが基準ですが、エンジンなどの内燃機関で動かす「非常動力装置」を、非常電源の代わりに設けてよい場合が、以前の質疑で示されていました。ここでは、その装置を、非常電源ではなく電動機そのものの代わりに設置できるかが問われました。
①非常動力装置の内燃機関は、自家発電設備の基準(昭和48年消防庁告示第1号)における原動機に係る規定に適合すること。
②非常動力装置は、消防法施行規則第12条第1項第4号ロ((ロ)を除く。)の規定に準じて設けること。
③屋内消火栓設備の起動装置及び表示灯については、別途非常電源を確保することが必要であること。
④当該非常動力装置の維持管理については、可搬消防ポンプ等整備資格者を活用して行うこと。
(消防庁の消防用設備等に係る質疑応答・通知)(平成7年2月21日・消防予第26号)
現行の規則第12条第1項第4号は、屋内消火栓設備の非常電源を、非常電源専用受電設備、自家発電設備、蓄電池設備、燃料電池設備の四種類と定めていて、「非常動力装置」という言葉は条文にありません。この回答は、条文どおりではなく、令第32条で個別に認める扱いを示したものです。
条件の②は、自家発電設備の規定(現行の第4号ロ)に準じるとしながら、(ロ)を除くとしています。現行の(ロ)は、常用電源が停電したときに、自動的に非常電源へ切り替えることを求める規定で、エンジンでポンプを直接動かす装置には切替えが要らない、という趣旨と読めます。
電動機の代わりに、エンジンを使ってもいいんですね。
はい。
ただし、令第32条での個別の判断です。
非常動力装置で足りていたスプリンクラー設備に、新たに義務がかかったらどうなるのか

質疑の建物は、3階建の店舗で、1階と2階が売場の無窓階でした。昭和48年7月に新築し、昭和49年10月に増築した建物で、すでに1階と2階にスプリンクラー設備が設置してあり、非常電源は、昭和50年7月10日消防安第77号の通知に基づき、非常動力装置を設けていました。
その後、平成2年の政令改正で、延べ面積が3,000平方メートル以上のこの用途にも、スプリンクラー設備の設置が義務づけられました。この建物の延べ面積は3,109.07平方メートルで、新たに義務の対象になったのです。
(消防庁の消防用設備等に係る質疑応答・通知)(平成6年3月28日・消防予第60号)
現行の令第12条第1項第4号は、(四)項の防火対象物のうち、平屋建以外で、総務省令で定める部分以外の部分の床面積の合計が3,000平方メートル以上のものに、スプリンクラー設備を求めています。質疑の店舗は、この規模にあたります。
回答は、新しく義務がかかった設備でも、すでに特例基準で認められた非常動力装置を設けているなら、自家発電設備に替える必要はないと整理しています。ただし、これは質疑の建物についての回答です。同じ形の設備が他の建物でも認められるかどうかは、消防長又は消防署長の判断になります。
新しい義務がかかっても、設備を全部入れ替えなくていいんですね。
この質疑では、そう答えています。
既存の非常動力装置で足りるとされました。
特例を受けた社会福祉施設を小さく増築すると、増築部分にも特例は及ぶのか

質疑の施設は、鉄筋コンクリート造2階建の老人ホームで、延べ面積は約2,000平方メートルでした。平成元年3月に、必要なスプリンクラー設備を設置していました。この施設で、約200平方メートルの増築工事の申請があったのです。
(消防庁の消防用設備等に係る質疑応答・通知)(平成5年11月29日・消防予第320号)
回答は、原則として、増築部分には特例を適用できないとしています。特例は、建物の規模や用途が変わったときに見直すのが基本だからです。そのうえで、増築が既存部分に比べて小さく、既存部分への影響が最小限に収まると解されるので、例外として準用を認めたという組み立てです。
令第34条の2に照らすと、この増築は、床面積が1,000平方メートル未満で、基準時の延べ面積の2分の1にも届きません。ただし、令第32条の特例は消防長又は消防署長の判断で、大きな増築や、用途の変更があれば、見直しの対象になります。特例を使っている施設で増築を計画するときは、計画の段階で所轄の消防署に確かめておくのが安全です。
小さな増築なら、特例をそのまま使えるということですか。
この質疑では、そうです。
規模が小さいことが理由になっています。
加圧送水装置まわり以外の配管にも、可撓管継手を使えるのか

平成5年6月30日消防予第199号の通知は、加圧送水装置の周辺配管に使う可撓管継手の取扱いを定めていました。この通知では、可撓管継手は本来、屋内消火栓設備やスプリンクラー設備で、加圧送水装置まわりの固定配管だけに使うものと解釈されるとされていました。
(消防庁の消防用設備等に係る質疑応答・通知)(平成5年11月29日・消防予第320号)
現行の規則第12条第1項第6号ホは、管継手を、日本産業規格に適合するものなどと定めていますが、可撓管継手をどの配管に使えるかは、条文にありません。使える場所は、この質疑のように通知の運用で示されています。
配管のずれについて、回答が挙げたのは、継手そのものに表示された「使用軸直角変位量」です。これは、認定を受けた製品ごとに決まっている値で、施工では、その範囲に収めるよう求められています。建物の揺れなどでずれる可能性がある部分に取り付けるときは、製品の表示を確かめることが必要です。
認定を受けた製品なら、他の配管でも使えるんですね。
はい。
ただし、ずれは表示された変位量までです。
既設の配線をそのまま使って、アナログ式の自動火災報知設備に更新できるのか

質疑は、感知器から受信機までの配線について、当時の消防法施行規則第24条第1項第1号ホが、規則第12条第1項第5号(耐熱配線)に準じることを求めている点を前提にしています。そのうえで、既設の感知器回路の配線を使い続けてよい要件を、2つの問で確かめました。
(消防庁の消防用設備等に係る質疑応答・通知)(平成6年12月6日・消防予第308号)
(消防庁の消防用設備等に係る質疑応答・通知)(平成6年12月6日・消防予第308号)
現行の規則第24条第1項第1号ホは、「R型受信機及びGR型受信機に接続される固有の信号を有する感知器及び中継器から受信機までの配線」について、第12条第1項第5号に準ずると書いています。第12条第1項第5号は、六百ボルト二種ビニル絶縁電線又は同等以上の耐熱性を有する電線を使うことなどを定めた規定です。
同じ条のヘは、共通線を、一本につき7警戒区域以下とすると定めています。2問目の要件にある「7警戒区域以下」は、この共通線の上限と同じ数字です。ただし、回答は、あくまで可能な限り耐熱性のある電線へ引き替えるのが望ましいとしていて、既設配線の流用は、条件付きの特別な扱いです。
配線を引き直さなくても、更新できる場合があるんですね。
はい。
ただし、検出できることなどの条件つきです。
よくある質問
まとめ
今ある設備を使い続けられる場合が、意外と多いんですね。
条件を確かめて、進めてみます!
進める前に、所轄の消防署へ確かめておくのが安心です。
㈱防災屋でもご相談を承っております。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 消防法第17条の2の5
- 消防法施行令第12条・第32条・第34条の2
- 消防法施行規則第12条・第24条
- 消防庁の消防用設備等に係る質疑応答(予防行政の通知)
※本記事は公表されている法令および通知に基づく一般的な解説です。掲載した回答は発出当時のもので、条番号や言葉づかい等は当時のものです。その後の改正により運用が変わっている場合があります。個別の事案についての適用は、所轄の消防署にご確認ください。





