同一都道府県内で受け入れ先が見つかれば、広域避難の協議はそこで完結します。
しかし被害が大きいときは、都道府県をまたいで受け入れ先を探さなければならないこともあります。
令和3年の災害対策基本法改正では、そのために通常ルートと緊急ルートという2つの協議の道筋が用意されました。
実はこの2つ、どちらを使うかの基準まで条文に書かれていることは、あまり知られていません。
都道府県をまたぐ協議なんて、うちには関係ないと思っていました。
実は令和3年の法改正で2つのルートができたんです。
経由する相手が変わるんです。
順番に見ていきましょう。
この記事の結論
- 令和3年の災害対策基本法改正で、都道府県をまたぐ広域避難には都道府県知事を通じた通常ルート(法第61条の5関係)と市町村長が直接協議する緊急ルート(法第61条の6関係)の2つが整備されました。
- 通常ルートは、協議元市町村長→都道府県知事→協議先都道府県知事→都道府県外協議先市町村長という段階を踏む仕組みです。
- 緊急ルートは、事態に照らし緊急を要すると認めるときに限り、市町村長が都道府県知事を介さず直接、他の都道府県内の市町村長に協議できます。
- どちらのルートでも、協議を受けた側は正当な理由がなければ要避難者を受け入れる原則は変わりません。
- 適当な協議の相手が見つからないときは、都道府県知事や内閣総理大臣による助言を求めることもできます。
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都道府県をまたぐ広域避難はなぜ必要になるのか
同一都道府県内で受け入れ先が見つかるとは限りません。
まずは規定が置かれた背景を確認します。
(災害対策基本法等の一部を改正する法律による改正後の災害対策基本法等の運用について 令和3年5月10日 府政防第601号・消防災第60号)災害の発生が予測される段階における広域避難や避難のための居住者等の運送は、事前に他の地方公共団体や運送事業者と締結した協定等に基づき実施されることが基本となるが、広域避難先として予定していた地方公共団体も被災するおそれが高いため、住民の受入れが困難となる、協定による対応として想定していた規模以上の災害が発生するおそれがある場合には、追加で他の運送事業者に要請する必要が生じる、など、協定等が十分に機能しない事態も想定される。(略)このほか、市町村長や都道府県知事が適当な協議の相手方を見つけられない場合等において、円滑かつ迅速な広域避難の実施に支障が生じないよう、都道府県知事又は内閣総理大臣による助言規定を設けたものである。
あらかじめ結んでいた協定が、当てにできるとは限りません。
受け入れ先として想定していた地方公共団体自体が
被災するおそれがあれば、住民を受け入れられなくなります。
運送を頼んでいた事業者だけでは、
想定を超える規模の災害に対応しきれないこともあります。
同一都道府県内で受け入れ先が見つからなければ、
都道府県をまたぐ協議に進む必要が出てきます。
次は、その通常のルートがどんな段階を踏むのかを見ていきます。
協定さえ結んでおけば、それで十分だと思っていました。
相手も被災すれば協定だけでは足りないこともあるんです。
通常のルートはどんな段階を踏むのか
都道府県をまたぐ場合、まず条文に定められた通常のルートを確認します。
第61条の5の仕組みを見ていきます。
(災害対策基本法等の一部を改正する法律による改正後の災害対策基本法等の運用について)法に規定する協議として、市町村長(協議元市町村長)からの要求を受けた都道府県知事(協議元都道府県知事)による他の都道府県知事(協議先都道府県知事)への協議及び協議を受けた当該他の都道府県知事(協議先都道府県知事)による関係市町村長(都道府県外協議先市町村長)への協議(第61条の5)が今般の改正法により創設される。
(災害対策基本法第61条の5第1項・第2項・第4項)前条第一項に規定する場合において、市町村長は、要避難者を一定期間他の都道府県内の市町村の区域に滞在させる必要があると認めるときは、都道府県知事に対し、当該他の都道府県の知事と当該要避難者の受入れについて協議することを求めることができる。前項の規定による要求があつたときは、都道府県知事は、要避難者の受入れについて、当該他の都道府県の知事に協議しなければならない。第二項の場合において、協議を受けた都道府県知事(以下この条において「協議先都道府県知事」という。)は、要避難者の受入れについて、関係市町村長と協議しなければならない。
通常ルートは、市町村長から都道府県知事へ、そこから相手の都道府県知事へと段階を踏んで協議が進みます。
まず
協議元市町村長が都道府県知事に、他の都道府県の知事と協議するよう求めます。
求めを受けた都道府県知事は、
協議先都道府県知事に協議しなければなりません。
協議を受けた協議先都道府県知事は、さらに
関係市町村長と協議する義務を負います。
このように相手が一つ決まるまでに複数の段階を経るのが通常ルートの特徴です。
相手の市町村長に、直接連絡してはいけないんですか。
通常ルートは都道府県知事どうしを経由するのが原則です。
事態が急迫したときはどんな近道が使えるのか
通常ルートには、段階を踏むぶん時間がかかるという弱点があります。
そこで用意されているのが、事態が急迫したときの近道です。
(災害対策基本法等の一部を改正する法律による改正後の災害対策基本法等の運用について)広域避難においては、災害が発生するまでの短期間に、かつ、できる限り早期に市町村の区域内の居住者等の安全を確保する必要がある。例えば、市町村が法第61条の5の規定による都道府県外広域避難の実施を検討し始めていたものの、気象の状況が急に著しく悪化するなど事態が急迫した場合において、当該市町村の区域の居住者等の生命または身体を保護するため都道府県外広域避難を緊急的かつ迅速に実施する必要が生じうる。そのような「事態に照らし緊急を要すると認めるとき」においては、市町村長は、他の都道府県内の他の市町村長に対し、都道府県外広域避難の協議を行うことができることとした。
(災害対策基本法第61条の6第1項)前条第一項に規定する場合において、市町村長は、事態に照らし緊急を要すると認めるときは、要避難者の受入れについて、他の都道府県内の市町村の市町村長に協議することができる。
気象が急変するなど事態が急迫したときは、市町村長が都道府県知事を介さず直接協議できます。
前提となる要件は
第61条の5第1項と同じで、他の都道府県内の市町村に滞在させる必要があると認めるときに限られます。
そのうえで
「事態に照らし緊急を要すると認めるとき」という追加の要件を満たせば、この近道が使えます。
協議した市町村長は、あらかじめその旨を都道府県知事に報告しなければならない点は変わりません。
次は、この使い分けで見落としやすい点を確認します。
条文には気象の急変で予定が間に合わなくなる場合が例に挙がっています。
都道府県知事や内閣総理大臣の助言はどう使えるのか
通常ルートと緊急ルート、どちらを選んでも相手が見つからないことがあります。
そんなときのための助言の規定を確認します。
(災害対策基本法等の一部を改正する法律による改正後の災害対策基本法等の運用について)このほか、市町村長や都道府県知事が適当な協議の相手方を見つけられない場合等において、円滑かつ迅速な広域避難の実施に支障が生じないよう、都道府県知事又は内閣総理大臣による助言規定を設けたものである。助言の内容としては、避難の受入れの候補となる地方公共団体及び当該地方公共団体における避難者の受入能力(施設数、施設概要等)、気象の予測、交通渋滞の状況等が考えられる。
(災害対策基本法第61条の7第1項・第2項)都道府県知事は、市町村長から求められたときは、第61条の4第1項の規定による協議の相手方その他広域避難に関する事項について助言をしなければならない。内閣総理大臣は、都道府県知事から求められたときは、第61条の5第2項の規定による協議の相手方その他都道府県外広域避難に関する事項又は広域避難に関する事項について助言をしなければならない。
助言は市町村長や都道府県知事から求めがあったときに応じる規定で、自動的には行われません。
見落としやすいのは、
第61条の6の緊急ルートも第61条の5第1項に規定する場合が前提という点です。基本の要件は同じで、違うのは
都道府県知事を介するかどうかだけです。
助言の中身は
受入能力や気象の予測、交通渋滞の状況まで含まれ、相手探しだけの制度ではありません。
都道府県知事への助言要求と内閣総理大臣への助言要求は、
それぞれ求める側が違うことも整理しておく必要があります。
次は、これらを踏まえて明日から確認すべきことを整理します。
助言があれば、協議の相手を探す手間が省けるんですね。
ただし求めがあったときに応じる規定だという点に注意してください。
明日から何を確認しておけばよいのか
最後に、地域防災計画で確認しておきたい手順を整理します。
通常ルートと緊急ルートの両方を意識しておくことが備えになります。
(災害対策基本法等の一部を改正する法律による改正後の災害対策基本法等の運用について)これらの規定に基づき、市町村長及び都道府県知事は広域避難の協議等を行うことができることとなるが、円滑かつ迅速な広域避難の実施のためには平常時からの検討、他市町村・事業者等との協定の締結、住民への周知徹底が重要であり、水害時の広域避難の検討等に当たっては、「水害からの広域避難に関する基本的な考え方」(令和3年5月(内閣府防災担当))を参考とされたい。
まず、都道府県をまたぐ受け入れ先の候補を、地域防災計画で確認しておきます。
候補先が被災した場合に備え、
複数の受入先候補を平常時から検討しておくと安心です。
緊急ルートを使う場合の連絡先や、
都道府県知事へ報告する手順も事前に確認しておきます。
協議の相手が見つからないときに備え、
都道府県知事や内閣総理大臣に助言を求める窓口も把握しておくとよいでしょう。
水害時の広域避難には、内閣府防災担当の「水害からの広域避難に関する基本的な考え方」も参考にできます。
うちの地域防災計画、都道府県外の受け入れ先まで書いてあるか確認します。
複数の候補を持っておくと安心です。
よくある質問もあわせてご確認ください。
よくある質問
Q都道府県をまたぐ広域避難は、必ず都道府県知事を通さなければなりませんか?
Aいいえ。事態に照らし緊急を要すると認めるときは、市町村長が都道府県知事を介さず、他の都道府県内の市町村長に直接協議できる規定(法第61条の6)があります。
Q緊急ルート(法第61条の6)を使うための要件は何ですか?
A前提となる要件は法第61条の5第1項と同じで、そのうえで気象の急変など事態に照らし緊急を要すると認められる必要があります。都道府県知事への事後報告も必要です。
Q協議の相手方が見つからないときはどうすればよいですか?
A都道府県知事や内閣総理大臣による助言を求めることができます。助言には受入れ候補地の受入能力や気象の予測、交通渋滞の状況などが含まれます。
Q都道府県をまたぐ場合でも、受け入れを断れる正当な理由の考え方は同じですか?
Aはい。正当な理由がない限り要避難者を受け入れるという原則は、同一都道府県内の協議(法第61条の4)と同じ考え方が適用されます。
まとめ
✔令和3年の災害対策基本法改正で、都道府県をまたぐ広域避難には都道府県知事を通じた通常ルート(法第61条の5関係)と市町村長が直接協議する緊急ルート(法第61条の6関係)の2つが整備されました。
✔きっかけの一つは、あらかじめ結んでいた協定だけでは対応しきれない事態が想定されることでした。
✔通常ルートは、協議元市町村長→都道府県知事→協議先都道府県知事→都道府県外協議先市町村長という段階を踏みます。
✔緊急ルートは、事態に照らし緊急を要すると認めるときに限り、市町村長が都道府県知事を介さず直接協議できます。
✔都道府県知事や内閣総理大臣による助言を求めることもでき、受入能力や気象の予測まで対象に含まれます。
✔どちらのルートでも、協議を受けた側が正当な理由なく拒めない原則は変わりません。
✔平常時から複数の受入先候補を地域防災計画で確認しておくことが実務の備えになります。
それが一番の備えになります。
㈱防災屋でもご相談を承っております。
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この記事を書いた人
㈱防災屋Web編集部
元消防士、行政書士、高専卒など
防火管理者には「セルフ選任」と「プロ代行」の2択があることをもっと多くの方々に知ってもらい、世の中の防火管理レベルをもっと上げていきたい。
0にはできない火災リスクとの向き合い方を伝え、救える命を増やし、悲しみの総量を減らしたい。
後悔してからでは遅すぎる火災予防に、Webの力で取り組む㈱防災屋の編集部です。
監修・編集者
青木 俊輔
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
学歴
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
保有資格
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
主な活動
参考・出典
- 災害対策基本法等の一部を改正する法律による改正後の災害対策基本法等の運用について(令和3年5月10日 府政防第601号・消防災第60号)
- 災害対策基本法(昭和36年法律第223号)第61条の5第1項・第2項・第4項、第61条の6第1項、第61条の7第1項・第2項
※本記事は公表されている法令および消防庁の通知に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。