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広域避難の運送はなぜ都道府県知事が要請できるのか|応じない事業者に指示するまでの流れを解説

移動手段が足りないときは誰が確保するのか

広域避難は、住民が自分の足や車で避難できることを前提に語られがちです。
しかし浸水想定区域の中には、自力での移動が難しい住民が集中している地域もあります。
そのために令和3年の災害対策基本法改正では、都道府県知事が運送事業者に運送を要請できる規定が新設されました。
実はこの規定、応じてもらえない場合に「指示」に切り替えられることまで条文に書かれています。

移動手段は各家庭で確保するものだと思っていました。

実は都道府県知事が運送事業者に要請できる制度があるんです。

事業者が断ったら、それで終わりなんですか。

正当な理由がなければ、指示に切り替えられます。
順番に見ていきましょう。

この記事の結論
  • 令和3年の災害対策基本法改正で、都道府県知事が運送事業者である指定公共機関・指定地方公共機関に居住者等の運送を要請できる規定(法第61条の8第1項)が新設されました。
  • 要請できるのは、都道府県の地域に係る災害が発生するおそれがあり、生命又は身体を保護するため緊急の必要があると認めるときに限られます。
  • 正当な理由がないのに要請に応じないときは、都道府県知事は運送を行うべきことを書面で指示できます(法第61条の8第2項)。
  • 運送にかかった費用は、要請又は指示した都道府県が運送契約を締結し、法第91条に基づき負担することが想定されています。
  • 要請できる相手は「運送事業者である指定公共機関又は指定地方公共機関」に限られ、地域の運送会社すべてが対象ではありません。

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移動手段が足りないときの確保の流れを示す図解(知事の要請から指示、費用負担までの4ステップ)

広域避難の移動手段はなぜ都道府県知事の仕事になるのか

浸水想定区域に取り残された住宅と動けないバスのイラスト

避難先の受け入れが決まっても、そこまで移動する手段が無ければ避難は実現しません。
まずは規定が置かれた背景を確認します。

(災害対策基本法等の一部を改正する法律による改正後の災害対策基本法等の運用について 令和3年5月10日 府政防第601号・消防災第60号)居住者等の運送については、居住者等の運送を要請又は指示した都道府県が、指定公共機関又は指定地方公共機関との間に運送契約を締結し、法第91条に基づき費用を負担することが想定される。

移動手段の確保は、市町村ではなく都道府県の仕事として整理されています。
広域避難は市町村長と都道府県知事の協議で受け入れ先が決まる仕組みですが、そこへ移動する手段の確保は別の規定が担います。
運送を要請するのも、費用を負担するのも都道府県という役割分担があらかじめ想定されています。
次は、その要請がどんな条件で誰に向けて行われるのかを見ていきます。

受け入れ先が決まれば、それで避難は完了だと思っていました。

そこへ運ぶ手段まで確保して初めて避難が成立します。

都道府県知事はどんな相手にどんな要請ができるのか

都道府県庁から運送会社のバスへ要請の書類がつながるイラスト

法第61条の8第1項は、要請できる相手と要件をどちらも限定しています。
条文を確認していきます。

(災害対策基本法第61条の8第1項)都道府県知事は、都道府県の地域に係る災害が発生するおそれがある場合であつて、居住者等の生命又は身体を当該災害から保護するため緊急の必要があると認めるときは、運送事業者である指定公共機関又は指定地方公共機関に対し、運送すべき人並びに運送すべき場所及び期日を示して、居住者等の運送を要請することができる。

要請できる相手は「運送事業者である指定公共機関又は指定地方公共機関」だけで、地域のすべての運送会社ではありません。
要件も都道府県の地域に係る災害が発生するおそれがある場合であつて、緊急の必要があると認めるときに限られています。
要請する際は運送すべき人・場所・期日の3つを具体的に示さなければなりません。
次は、要請に応じてもらえなかった場合にどうなるのかを見ていきます。

地域のバス会社にも直接お願いできるんですか。

この規定の相手は指定公共機関・指定地方公共機関に限られます。

要請に応じてもらえないときはどうなるのか

運送会社に指示の書面が強い矢印で届くイラスト

要請だけでは足りない事態に備え、条文には次の手段も用意されています。
第2項の指示の規定を確認します。

(災害対策基本法第61条の8第2項)指定公共機関又は指定地方公共機関が正当な理由がないのに前項の規定による要請に応じないときは、都道府県知事は、居住者等の生命又は身体を災害から保護するため特に必要があると認めるときに限り、当該指定公共機関又は指定地方公共機関に対し、居住者等の運送を行うべきことを指示することができる。この場合においては、運送すべき人並びに運送すべき場所及び期日を書面で示さなければならない。

指示に切り替えられるのは「正当な理由がないのに」応じない場合だけで、無条件に強制できるわけではありません。
指示に切り替える際にも特に必要があると認めるときという要件が別途課されています。
要請のときと違い、指示では運送すべき人・場所・期日を書面で示すことが義務付けられています。
次は、この要請・指示にかかる費用を誰が負担するのかを見ていきます。

要請を断っただけで、指示されてしまうんですか。

正当な理由があれば指示はできません。

運送にかかった費用は誰が負担するのか

都道府県庁と運送会社を結ぶ契約書とコインのイラスト

要請や指示を受けた運送事業者が、費用を持ち出しにされるわけではありません。
費用負担の考え方を確認します。

(災害対策基本法等の一部を改正する法律による改正後の災害対策基本法等の運用について)法第91条において「法令に特別の定めがある場合又は予算の範囲内において特別の措置を講じている場合を除くほか、災害予防及び災害応急対策その他この法律(災害対策基本法)の施行に要する費用は、その実施の責めに任ずる者が負担するものとする」とされている。
(災害対策基本法第91条)法令に特別の定めがある場合又は予算の範囲内において特別の措置を講じている場合を除くほか、災害予防及び災害応急対策に要する費用その他この法律の施行に要する費用は、その実施の責めに任ずる者が負担するものとする。

費用を負担するのは、運送を要請又は指示した都道府県です。
都道府県が指定公共機関又は指定地方公共機関との間に運送契約を締結したうえで、費用を負担することが想定されています。
運送事業者側が要請や指示に応じたことで費用を持ち出しにされる心配はしなくてよい仕組みです。
次は、これらを踏まえて明日から確認すべきことを整理します。

費用は運送事業者の持ち出しになるのかと心配していました。

費用は要請・指示した都道府県が負担する仕組みです。

明日から何を確認しておけばよいのか

チェックリストのクリップボードとバスのイラスト

最後に、地域防災計画で確認しておきたい点を整理します。
移動手段の確保も、事前の備えが重要です。

(災害対策基本法等の一部を改正する法律による改正後の災害対策基本法等の運用について)災害の発生が予測される段階における広域避難や避難のための居住者等の運送は、事前に他の地方公共団体や運送事業者と締結した協定等に基づき実施されることが基本となるが、協定による対応として想定していた規模以上の災害が発生するおそれがある場合には、追加で他の運送事業者に要請する必要が生じるなど、協定等が十分に機能しない事態も想定される。

要請・指示の規定は、あらかじめ結んだ協定を補う位置付けです。
まずは地域の運送事業者が指定公共機関・指定地方公共機関に該当するかを確認しておきます。
協定だけでは足りない事態を想定し、都道府県との連絡体制を平常時から把握しておくと安心です。
要請と指示で示すべき情報(運送すべき人・場所・期日)も、あらかじめ整理しておくと動きが早くなります。

うちの地域の運送事業者が対象に入るか確認してみます。

事前の確認が備えになります。
よくある質問もあわせてご確認ください。

よくある質問

Q都道府県知事は、どんな運送事業者にも運送を要請できますか?
Aいいえ。運送事業者である指定公共機関又は指定地方公共機関に対象が限られます(法第61条の8第1項)。地域のすべての運送会社が対象になるわけではありません。
Q要請に応じてもらえなかった場合、どうなりますか?
A正当な理由がないのに応じないときは、都道府県知事が運送を行うべきことを書面で指示できます(法第61条の8第2項)。
Q運送にかかった費用は、運送事業者が負担するのですか?
Aいいえ。要請又は指示した都道府県が運送契約を締結し、法第91条に基づき費用を負担することが想定されています。
Q要請と指示で、示さなければならない内容は違いますか?
A示す内容(運送すべき人・場所・期日)は同じですが、指示のときは書面で示すことが義務付けられている点が異なります。

まとめ

✔令和3年の災害対策基本法改正で、都道府県知事が運送事業者に居住者等の運送を要請できる規定(法第61条の8第1項)が新設されました。
✔要請できる相手は運送事業者である指定公共機関又は指定地方公共機関に限られます。
✔正当な理由がないのに要請に応じないときは、書面による指示に切り替えられます(法第61条の8第2項)。
✔運送にかかった費用は、要請又は指示した都道府県が運送契約を締結して負担します。
✔この規定はあらかじめ結んだ協定を補う位置付けで、協定が想定を超える事態に備えたものです。
✔要請・指示ともに運送すべき人・場所・期日を具体的に示す必要があります。
✔平常時から地域の運送事業者が対象に該当するかを確認しておくことが実務の備えになります。

地域の運送事業者、さっそく確認してみます!

それが一番の備えになります。
㈱防災屋でもご相談を承っております。

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お問い合わせ

監修・編集者
青木 俊輔
青木 俊輔

㈱防災屋 代表取締役/消防設備士

平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!

本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。

詳しい経歴・保有資格を見る
学歴
  • 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
  • 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
  • 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
保有資格
  • 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
  • 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
  • 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
  • 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
  • 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
  • eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了

趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)

主な活動

参考・出典

  • 災害対策基本法等の一部を改正する法律による改正後の災害対策基本法等の運用について(令和3年5月10日 府政防第601号・消防災第60号)
  • 災害対策基本法(昭和36年法律第223号)第61条の8第1項・第2項、第91条

※本記事は公表されている法令および消防庁の通知に基づく一般的な解説です。条例や運用は市町村ごとに異なる場合があります。個別の判断は所轄消防署にご確認ください。

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