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既存の特定防火対象物への特例通達はどう運用されたのか|設置基準面積とバルコニー等と病室等と令第32条など五つの質疑を現行の条文と照らして解説

既存の建物への特例通達の運用を確かめる

消防用設備等の基準が新しくなると、すでに建っている建物にも、同じ基準を求めるのかが問題になります。
消防法は、既存の建物には原則として従前の基準を適用し、特定防火対象物などは例外として新しい基準を求める仕組みです。
消防の実務書には、昭和50年に示された特例通達の運用をめぐる質疑応答が収められています。
この記事では、その中から5つの論点を取り上げ、現行の条文に照らして読みます。面積の数え方から屋内消火栓の省略まで、順に確かめます。

古い質疑でも、今の実務に関わる話があるんでしょうか。

はい。
条文の仕組みは残っているので、考え方は今も参考になります。

どんな論点が出てくるんですか。

面積の数え方、厨房、バルコニー、病室、それに令第32条の特例です。

この記事の結論
  • ボイラーや発電機のような設備の部屋は、質疑では防火区画された部分ごとに面積を数え、区画されていなければ全体の面積で数えると答えています
  • 「多量の火気を使用する部分」は、厨房のうち設備のある部分だけでなく、厨房全体を指すと答えています
  • 特例通達のバルコニー等に、常時開放の一般的な廊下は入りませんが、各居室の避難器具で2方向避難ができればバルコニー等があるものとして運用できると答えています
  • 病室等の「等」には、病室の附室や前室、検査のために随時入院させる室などが含まれると答えています
  • 延べ面積300平方メートル未満で2方向避難ができ、消火器具と自動火災報知設備を設けたものに限り、令第32条を適用して屋内消火栓設備を省略してよいと答えています

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特例通達の運用の五題として、区画された部屋は別々に面積を数える、厨房は設備の場所だけでなく全体を数える、各室の避難器具でバルコニーの代わりにできる、病室等には附室や前室も含まれる、三つの条件がそろえば屋内消火栓を省略できる、を並べた図解

既存の建物に新しい基準は、どこまで及ぶのか

消防法第17条の2の5第1項は、基準が新しくなった際に現に存する防火対象物の消防用設備等が、新しい規定に適合しないときは、新しい規定を適用せず、従前の規定を適用すると定めています。
同条第2項第4号は、百貨店、旅館、病院、地下街などの特定防火対象物については、この例外が働き、新しい基準が求められると定めています。
ただし、消防法施行令第32条は、消防長又は消防署長が、位置、構造又は設備の状況から見て、基準によらなくても火災の発生又は延焼のおそれが著しく少なく、被害を最小限度に止められると認めるときは、基準を適用しないと定めています。
昭和50年の特例通達は、この令第32条の運用を、既存の防火対象物について具体的に示したものです。質疑は、その運用で迷った点について、山形県からの問い合わせに消防庁が答えたものです。通達の全文は、この記事では引いていません。質疑に出てくる部分だけを読みます。

ボイラーや発電機の部屋の面積は、区画ごとに数えるのか

薄ベージュの機械室の床が上から切り開かれ、二枚の仕切り壁とオレンジ色の小さな防火戸で三つに分かれ、灰色の発電機、濃紺の変圧器の箱、灰色のボイラーが一つずつ置かれているイメージ
消防法施行令第13条は、発電機、変圧器その他これらに類する電気設備が設置されている部分で床面積が200平方メートル以上のもの、また、鍛造場、ボイラー室、乾燥室その他多量の火気を使用する部分で床面積が200平方メートル以上のものに、不活性ガス消火設備、ハロゲン化物消火設備又は粉末消火設備のいずれかを設けるよう定めています。
質疑は、この床面積を、部屋が並んでいるときにどう数えるのかを問うものです。
問(要旨) 令第13条の表の改正部分について、次の図のとき、設置基準面積の算定はどのようにすべきか。例図1は、発電室、変電室、ボイラーが、それぞれ不燃材料以上の構造により完全に区画されている。例図2は、発電機、空調機械、ボイラーが一つの空間に並んでいる。
答(要旨) 例図1の場合は、それぞれ不燃材料及び甲種防火戸又は乙種防火戸により防火区画された部分ごとに面積を算定されたい。例図2の場合は、全体の面積によられたい。
(消防庁の消防用設備等に係る質疑応答・通知)(昭和51年5月15日・消防予第2号)
防火区画された部分ごとに数え、区画されていなければ全体で数えると答えています。
数え方で結果が変わるのは、200平方メートルの線があるからです。区画のない一つの空間であれば、その空間全体の床面積で、200平方メートルに達するかどうかを見ることになります。区画で分けてあれば、それぞれの部分で見ます。
ここで言う区画は、不燃材料と、甲種又は乙種の防火戸で分けた部分です。開放したままの仕切りや、防火戸のない開口があれば、別々には数えられない可能性があるので、区画の作り方を確かめる必要があります。

壁で分けるだけで、数える範囲が変わるんですね。

はい。
ただし、防火戸を備えた区画であることが前提です。

厨房のうち設備のある部分だけが多量の火気の部分なのか

灰色のガスコンロが一列に並ぶ大きな業務用厨房の上に濃紺の大きな排気フードがかかり、ステンレスの調理台とベージュのタイルの床が広がるイメージ
令第13条に出てくる「多量の火気を使用する部分」は、ボイラー室や乾燥室のように、はっきりした部屋だけを指すのではありません。デパートやホテル、食品工場の厨房も、ここに含まれるかが問われました。
問(要旨) 「多量の火気を使用する部分」とは、デパート、ホテル及び食品工場等の厨房のうち、当該用途が設備されている部分のみを指すのか。又は当該厨房全体を指すのか。
答(要旨) 後段のとおり、当該厨房全体を指す。
(消防庁の消防用設備等に係る質疑応答・通知)(昭和51年5月15日・消防予第2号)
設備のある部分だけでなく、厨房全体を指すと答えています。
厨房の床面積を数えるときに、コンロの周りだけを切り取って計算するのではなく、厨房として使う部屋全体を対象にする、という読み方になります。
現行の令第13条も、「鍛造場、ボイラー室、乾燥室その他多量の火気を使用する部分」で床面積が200平方メートル以上のものと定めています。厨房の面積が200平方メートルに近い建物では、計算の範囲を早めに確かめておくと安心です。

コンロのまわりだけで数えたら、足りなくなるかもしれませんね。

そうです。
数える範囲は、厨房全体だと考えて確かめます。

一般的な廊下や各室の避難器具は、バルコニー等に入るのか

三階建ての薄ベージュの病院の建物の各階に、細い濃紺の手すりのついた開放的なバルコニーが連なり、端に灰色の屋外鉄階段が付いているイメージ
特例通達には、避難のためのバルコニー等について定めた部分があります。質疑では、そのバルコニー等の範囲について、三つの例が挙げられました。
問(要旨) 特例通達第1の1(1)のバルコニー等の範囲に、次のものは該当するか。(1) 常時外気に開放されている一般的な廊下。(2) バルコニー等は設けられていないが、各室ごとに避難器具が設置されているもの。(3) 異なる防火区画相互を連結しているバルコニー等があるとき、区画されたそれぞれの部分に階段の設置を要するか。
答(要旨) (1) 該当しない。
(2) バルコニー等には該当しないが、各居室ごとに避難器具が設けられていることにより有効に2方向避難ができる場合は、バルコニー等が設けられているとして運用してさしつかえない。
(3) 防火区画された部分ごとに階段又は避難器具を設ける必要はなく、接続されたバルコニー等に一の階段等を設ければ足りる。バルコニー等から居室を安全に経由して階段に至る場合も含む。
(消防庁の消防用設備等に係る質疑応答・通知)(昭和51年5月15日・消防予第2号)
一般的な廊下はバルコニー等ではないが、各室の避難器具で2方向避難ができれば、バルコニー等があるものとして扱えると答えています。
一方で、バルコニーがなくても、各居室に避難器具があり実際に2方向へ避難できるなら、同じ扱いにできます。
連結したバルコニーがあるときは、区画ごとに階段を設ける必要はなく、一つの階段等で足りると答えています。バルコニー等から居室を通って安全に階段へ着く経路も含みます。
特例通達の細かい要件は、この記事では引いていません。実際の建物の判断は、所轄の消防署に、当時の通達の後の扱いを含めて確かめてください。

バルコニーが無くても、避難器具があれば認められることがあるんですね。

はい。
ただし、実際に2方向避難ができることが条件です。

病室等の「等」には、どんな部屋まで含まれるのか

病棟の階が上から切り開かれ、薄ベージュのベッドが淡い青の毛布をかけて廊下沿いに並び、突き当たりに扉が一つだけの小さな別室があるイメージ
特例通達の中には、「病室等」という言葉が出てきます。この「等」の範囲を、限定的に読むのかどうかが、問われました。消防法施行令別表第一(6)項イには、病院、診療所又は助産所が掲げられています。
「等」の範囲が広ければ、防火対策を求める部分も広がります。
問(要旨) 特例通達第1の2の①の病室等の「等」とは、限定的に解するのか。又は更に範囲があるのか。仮に限定的に解するとすれば、「等」の文字を用いたその理由はいかに。
答(要旨) 病室等は、病室、病室に準ずる室及びこれらに面する廊下の部分を総称するために用いたものであり、病室に準ずる室として、病室の附室又は前室、検査のために随時に入院させる室等が含まれる。
(消防庁の消防用設備等に係る質疑応答・通知)(昭和51年5月15日・消防予第2号)
病室等は、病室と、病室に準ずる室と、これらに面する廊下の部分の総称だと答えています。
準ずる室には、病室の附室や前室のほか、検査のために随時入院させる室も含まれます。病室そのものでなくても、病室に準ずる使い方をする部屋は、対象に入ります。
また、廊下も、病室に面している部分は入ります。病棟の防火対策を考えるときは、病室の中だけで区切らず、附室、前室、面する廊下まで見ておく必要があります。

「病室」と呼ばない部屋も、対象になるかもしれないんですね。

はい。
病室に準ずる部屋まで含めて確かめるのがポイントです。

小さな無窓階の建物は、屋内消火栓設備を省略してよいのか

小さな薄ベージュの二階建ての店舗の建物に、ごく小さな窓が少しだけあり、入口の脇に赤い消火器が立ち、壁にオレンジ色の小さな非常ベルが付いているイメージ
消防法施行令第11条第1項第6号は、地階、無窓階又は4階以上の階で、床面積が、(1)項は100平方メートル以上、(2)項から(10)項まで、(12)項及び(14)項は150平方メートル以上、(11)項及び(15)項は200平方メートル以上のものに、屋内消火栓設備を設けるよう定めています。
質疑の背景は、改正により、従来は普通階だった小規模な特定防火対象物が、無窓階と判断されるようになったことです。密集した市街地で、屋内消火栓設備を新しく設けるのが難しいとして、令第32条の適用が求められました。
問(要旨) 既存の小規模な特定防火対象物のうち、令第11条第2項のいわゆる倍読み規定が適用されない、床面積300平方メートル未満の無窓階のものについて、令第32条の規定を適用して屋内消火栓設備の設置の代替措置を認めてよいか。対象は、密集した市街地で、周囲に通路その他の空地を確保できないものに限りたい。代替措置は、消火器具を令第10条の基準の5倍設置し、かつ、粉末消火設備又は自動火災報知設備を設けることとしたい。
答(要旨) 設問の場合、次のアからウまでに該当する場合に限り、令第32条の規定を適用し、屋内消火栓設備の設置を省略してさしつかえない。
ア 延べ面積が300平方メートル未満のものであること。
イ 防火対象物の各部分から2方向避難ができるものであること。
ウ 消火器具及び自動火災報知設備を技術上の基準により設けたものであること。
(消防庁の消防用設備等に係る質疑応答・通知)(昭和51年5月15日・消防予第2号)
延べ面積、2方向避難、消火器具と自動火災報知設備の三つがそろう場合に限って省略してよいと答えています。
照会は、消火器具を基準の5倍にするなど、別の代替措置を提案していました。回答は、それより簡潔な三条件を示しています。屋内消火栓設備を省略できるのは、小さくて避難しやすく、初期消火と発見の設備が基準どおりに整っている建物に限る、という考え方です。
令第32条を適用するのは、消防長又は消防署長です。自分で省略を決めることはできず、所轄の消防署の判断を得る必要があります。また、通達の後に基準や運用が変わっていることもあるので、最新の扱いを確かめてください。

省略できる条件は、思ったよりはっきりしているんですね。

はい。
ただし、署長が認めることが前提です。

よくある質問

Q既存の建物には、新しい消防用設備等の基準は適用されないのですか?
A消防法第17条の2の5第1項は、原則として従前の規定を適用すると定めています。ただし、同条第2項に該当する特定防火対象物などには、新しい基準が求められます。
Q令第32条は、誰が適用を認めるのですか?
A令第32条は、消防長又は消防署長が、防火対象物の位置、構造又は設備の状況から判断して認めるときは基準を適用しない、と定めています。所轄の消防署に相談してください。
Q厨房の面積は、コンロの周りだけを数えればよいですか?
A質疑では、多量の火気を使用する部分は、設備のある部分だけでなく厨房全体を指すと答えています。厨房全体の面積で確かめてください。
Q質疑の回答は、今もそのまま使えますか?
A質疑に出てくる通知の名前や機関の名前は、当時のものです。運用が変わっていることもあるので、所轄の消防署に確かめてください。

まとめ

✔消防法第17条の2の5は、既存の建物に原則として従前の基準を適用し、特定防火対象物などは例外とする
✔ボイラーや発電機の部屋の面積は、防火区画された部分ごとに数え、区画がなければ全体で数える
✔「多量の火気を使用する部分」は、厨房全体を指すと答えている
✔一般的な廊下はバルコニー等ではないが、各室の避難器具で2方向避難ができれば同じ扱いにできる
✔病室等には、病室、附室、前室、検査のために随時入院させる室、面する廊下が入る
✔延べ面積300平方メートル未満などの三条件で、令第32条により屋内消火栓設備を省略できると答えている
✔省略や運用は、消防長又は消防署長が認めるもので、実際の適用は所轄の消防署に確かめる

既存の建物にも、細かい運用の決まりがあるんですね。
まずは、うちの建物の区画を見直してみます!

進める前に、所轄の消防署へ確かめておくのが安心です。
㈱防災屋でもご相談を承っております。

防火管理はプロにお任せ下さい

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お問い合わせ

監修・編集者
青木 俊輔
青木 俊輔

㈱防災屋 代表取締役/消防設備士

平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!

本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。

詳しい経歴・保有資格を見る
学歴
  • 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
  • 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
  • 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
保有資格
  • 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
  • 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
  • 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
  • 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
  • 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
  • eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了

趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)

主な活動

参考・出典

  • 消防法第17条の2の5
  • 消防法施行令第11条・第13条・第32条・別表第一
  • 消防庁の消防用設備等に係る質疑応答(予防行政の通知)

※本記事は公表されている法令および通知に基づく一般的な解説です。掲載した回答は発出当時のもので、条番号や言葉づかい等は当時のものです。その後の改正により運用が変わっている場合があります。個別の事案についての適用は、所轄の消防署にご確認ください。

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