カーテンやじゅうたんに「防炎」のラベルが必要かどうかは、国の消防法令では建物の用途で決まります。
劇場や飲食店、ホテル、病院などは対象で、事務所や工場、共同住宅は(高層建築物でなければ)対象外です。
ところが堺市消防局の「堺市消防同意・消防用設備等審査基準」は、国の対象外の建物でも、一部の部分には防炎物品を使うよう求めています。
この記事では、国の法令と堺市の運用を分けて読み、どの場面で防炎物品が求められるのかを順にたどります。
大阪市・東大阪市の公開資料とも比べます。
堺市の事務所ビルで、ロビーを使って短い期間の展示販売会を開く予定です。
事務所は防炎の対象外と聞いたので、普通のカーテンや布で仕切ればよいでしょうか。
国の法令だけを見ると、事務所ビルは防炎の対象外です。
ただ、堺市の審査基準には、その場合の上乗せが書かれています。
国の決まりとは別に、堺市の決まりがあるのですか。
はい、堺市独自の「★」の付いた指導基準です。
国の決まりと堺市の運用を、順番に見ていきましょう。
- 国の消防法第8条の3と施行令第4条の3は、劇場・飲食店・店舗・ホテル・病院などの用途と高層建築物・地下街で使うカーテン等に防炎性能を求めています
- 堺市の審査基準は、屋上やバルコニー、複合用途の共用部分、工事中のサイロやタンクなども防炎防火対象物に含むとしています
- 堺市は★で、防炎の対象外の建物の一部(従属的な飲食店や短期の催し・展示販売の部分など)にも防炎物品の使用を求めています
- のれんは下げ丈おおむね1m以上、厨房など火気のある場所では大きさに関係なく対象とし、2㎡以下のじゅうたん等や畳は対象外としています
- 今回確認した大阪市・東大阪市の公開資料には防炎物品の節がなく、堺市の★の上乗せは堺市の建物で確かめる必要があります
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目次
国の防炎規制はどの建物とどの物品にかかるのか

防炎の決まりの出発点は、消防法第8条の3第1項です。
建物のほうは、施行令第4条の3第1項が定めています。
(5)項イは旅館・ホテル、(6)項は病院・福祉施設・幼稚園など、(9)項イは蒸気浴場など、(12)項ロは映画スタジオ・テレビスタジオ、(16の3)項は準地下街です。
これに、法律そのものが挙げる高層建築物(高さ31mを超える建築物)と地下街が加わります。
反対に、事務所(15)項や工場(12)項イ、共同住宅(5)項ロは、高層建築物でなければこの一覧に入りません。 物品のほうは、同じ条の第3項です。
ここからは、堺市がこの国の決まりをどう読み、何を足しているかを見ていきます。
建物の用途が一覧に入っていなければ、防炎の決まりはかからないのですね。
国の法令では、まず建物の用途で決まります。
次に、堺市が対象に含めるとしている部分を見ます。
堺市が防炎防火対象物に含めるとしている部分はどこか

ア 防炎防火対象物の屋上部分及び防炎防火対象物のポーチ、バルコニー等の外気に開放された部分
イ 防炎規制を受ける用途と受けない用途で構成される複合用途防火対象物で、防炎防火対象物の用途に供する廊下、階段等の共用部分
ウ 高層建築物で、その一部が政令第8条区画に規定する耐火構造の壁及び床で区画された防炎防火対象物の用途以外の部分
エ 工事中のサイロ、危険物の貯蔵タンク、ガス貯蔵タンク等
※ 当該対象物は、省令第4条の3第1項第3号に規定する貯蔵槽に該当する。
堺市の凡例では、印のない項目は次のように説明されています。
アは、ホテルや飲食店の建物なら、屋上やバルコニーで使う物品も対象になるという読み方です。
イは、複合用途の建物で、対象の用途が使う廊下や階段も含めるという読み方で、国の質疑の扱いは防炎規制の及ぶ範囲を解説した記事で取り上げています。
ウは、高層建築物なら、令第8条の区画で分けた対象外の用途の部分も含めるという読み方です。 エの工事中のサイロやタンクは、条文を2段たどると理由が分かります。
一 建築物(都市計画区域外のもつぱら住居の用に供するもの及びこれに附属するものを除く。)
二 プラットホームの上屋
三 貯蔵槽
四 化学工業製品製造装置
五 前二号に掲げるものに類する工作物
- 施行令第4条の3第1項は、工事中の建築物その他の工作物を対象にし、「総務省令で定めるもの」を除いています
- 施行規則第4条の3第1項は、除くものを「次の各号に掲げるもの以外のもの」としています
- つまり一覧に載っている建築物・上屋・貯蔵槽・化学工業製品製造装置などは除かれず、工事中なら対象に残ります
- 堺市の※は、工事中のサイロや危険物・ガスの貯蔵タンクが、この第3号の貯蔵槽に当たると示しています
工事中のタンクにも防炎の決まりがかかるとは知りませんでした。
規則は「掲げるもの以外を除く」という書き方なので、読み違えやすいところです。
次は、堺市が独自に足している部分です。
堺市が★で防炎物品を求める4つの部分はどこか

ア 地下街と一体をなす建築物の地階で、防炎防火対象物以外の用途部分
イ 防炎防火対象物以外の防火対象物で、政令第1条の2第2項に規定する従属的な部分となる飲食店、物品販売店舗、診療所等の部分
ウ 防炎防火対象物以外の防火対象物で、舞台を有し、短期的に映画、演劇等の催しに使用される部分
エ 防炎防火対象物以外の防火対象物で、短期的に物品販売、展示等に利用される不特定多数の者を収容する当該部分
4つとも、国の一覧では防炎の対象にならない場面を拾っています。
| 堺市が防炎物品を求める部分 | 国の法令だけで見ると | |
|---|---|---|
| ア | 地下街と一体をなす建築物の地階で、防炎の対象外の用途の部分 | 地下街そのものは対象だが、建築物の地階は用途で判断され、対象外の用途なら対象外 |
| イ | 対象外の建物で、従属的な部分となる飲食店・物品販売店舗・診療所等 | 建物全体が主たる用途で扱われ、対象外 |
| ウ | 対象外の建物で、舞台があり短期的に映画・演劇等の催しに使う部分 | 建物の用途が対象外なら対象外 |
| エ | 対象外の建物で、短期的に物品販売・展示等に使い不特定多数が入る部分 | 建物の用途が対象外なら対象外 |
- 国の防炎規制は、施行令第4条の3第1項の用途の一覧で建物を決めます
- 事務所ビルの中の小さな飲食店や売店が、施行令第1条の2第2項で従属的な部分と認められると、その用途は事務所に含まれます
- 建物全体は事務所(15)項として扱われ、高層建築物でなければ国の防炎規制の対象外になります
- 堺市の(2)イは、その場合でも飲食店・物品販売店舗・診療所等の部分には防炎物品を使用することとしています
冒頭の相談のように、事務所ビルのロビーで短い期間の展示販売会を開くなら、エに当たる可能性があります。
ロビーの展示販売会は、エに当たるかもしれないのですね。
はい、短期的でも不特定多数が入る部分が挙げられています。
仕切りや敷物を選ぶ前に、所轄の消防署に相談しておくと安心です。
のれんやエレベーターの養生マットは防炎対象物品になるのか

堺市の2(1)は、施行令第4条の3第3項の物品に含まれるものを挙げています。
ウ 布製ののれん、装飾幕、紅白幕等で、下げ丈が概ね1m以上のもの
ただし、厨房、火気使用部分等で火災危険のある場所で使用するのれん等については大きさに関係なく全て対象となる。
エレベーターの床や壁を守る敷物等は、2㎡を超えるものが挙げられています。
(1)のほかの項目をまとめると、次のとおりです(いずれも無印)。
| 含まれるとされる物品 | 主な例 |
|---|---|
| 仕切り・壁際の布 | 布製のアコーデオンドア・衝立て、壁に沿って下げる室内装飾の布 |
| のれん・幕 | 下げ丈おおむね1m以上ののれん・装飾幕・紅白幕(厨房等は大きさに関係なく) |
| スクリーン・合板 | 劇場等の映写用スクリーン、展示会場の台やバックスクリーンの合板、店舗で天井から下げたりパネルにしたりする合板 |
| 床に敷くもの | 屋外の観覧席・通路等のじゅうたん等、人工芝、2㎡を超えるエレベーターの内面保護の敷物等 |
| その他 | 試着室の目隠布 |
ア 大きさが2㎡以下のじゅうたん等
ウ 接着剤等で床に貼られ、床と一体となっている合成樹脂製床シート、プラスチックタイル及びクッションフロアー
エ 畳
サ コンクリートの養生、工事用機械等の覆いに使用される工事用シート
※ 立ち上がっている状態で使用されるものは防炎対象物品に該当する。また、建築物その他の工作物の天井、壁等一部の工事に用いられるもの、中空に張った状態で使用するもの等も防炎規制の対象となる。
工事用シートは、床に敷いて養生する使い方なら対象外ですが、立ち上げて使うと対象という線引きです。
じゅうたん等の細かい判定はじゅうたん等の防炎規制の質疑を解説した記事と小さなラグの2平方メートルの目安の記事をご覧ください。
建基法第2条第9号に規定する不燃材料、建基政令第1条第5号に規定する準不燃材料及び建基政令第1条第6号に規定する難燃材料に該当するもの
展示の仕切りに不燃材料のパネルを使うときは、この扱いを所轄の消防署に確かめておくと話が早くなります。
厨房ののれんは、短くても対象になるのですね。
はい、火気のある場所は大きさに関係なく対象です。
最後に、大阪市・東大阪市と比べます。
大阪市や東大阪市と比べて堺市の扱いはどう違うのか

今回確認した公開資料(大阪市45ファイル・東大阪市6ファイル)には、防炎防火対象物や防炎物品を扱う節はありませんでした。
大阪市の資料で「防炎」が出てくるのは、二酸化炭素消火設備の節で断熱材料に防炎処理を施した材料等を求める箇所だけです。
| 項目 | 大阪市 | 東大阪市 | 堺市 |
|---|---|---|---|
| 防炎の節 | 公開の運用基準には見当たらない | 公開の運用基準には見当たらない | 第2章 第1節 第11 |
| 防炎防火対象物に含める部分 | 今回の資料では確認できず | 今回の資料では確認できず | 屋上・バルコニー、共用部分、高層建築物の区画部分、工事中の貯蔵槽(無印) |
| 対象外の建物への上乗せ | 今回の資料では確認できず | 今回の資料では確認できず | 従属的な飲食店等・短期の催しや展示販売の部分など(★) |
| 物品の線引き | 今回の資料では確認できず | 今回の資料では確認できず | のれん1m・2㎡・工事用シートの使い方など(無印) |
資料に節がないことは、上乗せがないことの証明にはならないためです。 なお、堺市の審査基準は第11の次の第12で、寝具やテントなどの「防炎製品」も扱っています。
堺市の建物でカーテンや敷物、仕切りを選ぶときの確かめ方を整理します。
- 建物の用途が、施行令第4条の3第1項の防炎防火対象物か、高層建築物・地下街かを確かめます
- 対象なら、屋上・バルコニーや共用部分も含めて、使う物品が防炎対象物品に当たるかを2(1)(2)で確かめます
- 対象外でも、従属的な飲食店・物品販売店舗・診療所等や、短期の催し・展示販売に使う部分がないかを1(2)★で確かめます
- のれんは下げ丈と火気の有無、敷物は2㎡、工事用シートは使い方で線引きします
- 迷う場面は、使う前に所轄の消防署に相談します
大阪市や東大阪市の建物なら、堺市の★はそのまま当てはまらないのですね。
はい、★は堺市消防局の指導基準です。
ほかの市では、その市の消防署に確かめるのが確実です。
よくある質問
まとめ
展示販売会の前に、仕切りの布と敷物の防炎ラベルを確かめます。
迷うものは消防署に相談します!
使う前に確かめておけば、当日の指摘や差し替えを防げます。
㈱防災屋でもご相談を承っております。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 堺市消防局「堺市消防同意・消防用設備等審査基準」第1章 総則 4 凡例、第2章 第1節 第11 防炎防火対象物、防炎物品(1 (1)(2)、2 (1)(2)(3))、第12 防炎製品 1 (1) https://www.city.sakai.lg.jp/kurashi/bosai/shobo/shokai/reiki/kijyun/setubikijun.html
- 大阪市消防局「消防用設備等の設置に係る運用基準」 https://www.city.osaka.lg.jp/shobo/page/0000350878.html
- 東大阪市消防局 消防用設備等の運用基準(公開6基準) https://www.city.higashiosaka.lg.jp/0000041303.html
- 消防法 第8条の2第1項、第8条の3第1項
- 消防法施行令 第1条の2第2項、第4条の3第1項・第3項
- 消防法施行規則 第4条の3第1項
- 建築基準法 第2条第9号、建築基準法施行令 第1条第5号・第6号
※本記事は公表されている法令および堺市・大阪市・東大阪市の公開資料に基づく一般的な解説です。運用基準は改正されることがあるため、最新の内容は管轄の消防署・消防局で確認してください。個々の建物の扱いは、所轄の消防署にご確認ください。





