屋内消火栓設備には、停電しても動かせるように「非常電源」を設けることになっています。
この非常電源は、すでに建っている学校のような建物にも、あとから付けなければならないのでしょうか。
昭和50年の消防庁の通知には、既存の建物への適用、内燃機関で動かすポンプの扱い、専用受電設備、配線、表示灯の電源について答えた質疑が残っています。
この記事では、その質疑を五つの論点に分け、現行の条文に照らして読みます。既存の建物への適用と、専用受電設備・配線・表示灯の扱いを順に見ていきます。
質疑では、特定防火対象物だけと答えています。
ほかにも、配線や表示灯の質疑があります。
では、質疑の答えと条文を見比べていきましょう。
数字は、当時の単位のまま引いています。
この記事の結論
- 既存の屋内消火栓設備に非常電源の基準が遡るのは、特定防火対象物だけと答えています
- 内燃機関で直接動かすポンプは、自家発電設備の基準に適合すれば非常電源の設備を省略できると答えています
- 延べ面積1,000平方メートル以上の特定防火対象物では、既存のものでも専用受電設備は認められないと答えています
- 変圧器の一次側の配線も、建物の内部では耐熱保護をしなければならないと答えています
- 表示灯の電源を、自動火災報知設備の受信機の予備電源から取ることは適当でないと答えています
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既存の屋内消火栓設備にも非常電源を付けなければならないのは、特定防火対象物だけなのか
消防法第17条の2の5第1項は、基準が新しくなった時にすでに建っている防火対象物の消防用設備等は、新しい基準に適合していなくても、従前の規定を適用すると定めています。ただし、同条第2項第4号は、百貨店、旅館、病院、地下街など多数の者が出入りする「特定防火対象物」の消防用設備等には、この扱いを適用しないと定めています。屋内消火栓設備に非常電源を付ける決まりが加わったとき、すでに建っている建物のどこまでに新しい基準が及ぶのかが、質疑で問われました。
問(要旨) 消防法施行令の改正により、屋内消火栓設備には非常電源を附置することとなったが、既存の当該設備について附置義務が生ずるのは、特定防火対象物だけでよいか。学校などで既存の屋内消火栓設備にも、非常電源をつけるのか。
答(要旨) 前段 お見込みのとおり。 後段 既存の学校等特定防火対象物以外の防火対象物についての非常電源に関する基準等は、遡って適用されない。
(昭和50年6月16日消防安第65号・各都道府県消防主管部長あての回答)
既存の建物に非常電源の基準が遡るのは、特定防火対象物だけと答えています。
答えは、学校のような特定防火対象物以外の既存の建物には、
非常電源に関する基準は遡って適用されないとしています。なお、学校は消防法施行令別表第一の(7)項で、施行令第34条の4が、特定防火対象物として挙げる項に入っていません。
ただし、答えは、増築や改築などで工事に着手した場合の扱いまでは、述べていません。法第17条の2の5第2項は、その場合の適用除外を別に定めているため、個別の事案は所轄の消防署に確かめてください。
学校のような建物は、古いままの基準でよかったんですね。
答えは、遡るのは特定防火対象物だけ、です。
増築などの場合までは、述べていません。
内燃機関でポンプを直接動かす方式は、非常電源を省略してよいのか
屋内消火栓設備の加圧送水装置は、電動機で動かすのが一般的です。しかし、ガソリンやディーゼルなどの内燃機関で、発電機を経ずにポンプを直接動かす方式もあります。この方式は、非常電源とは別の動力源にあたります。そこで、この方式を非常電源の代わりとして認めてよいか、また、すでに条例で内燃機関を付けさせている場合はどうなるかが、続けて問われました。
問(要旨) 1 「消防法施行規則の一部を改正する省令の施行について」(昭和44年3月29日消防予第65号)により、内燃機関によって加圧送水装置を発電機を経ないで直接駆動するものは、従来どおり消防法施行令第32条の規定を適用して認めてさしつかえないか。なお、この通達は廃止になる予定かどうか。2 延べ面積が1,000平方メートル以上の特定防火対象物は、自家発電設備又は蓄電池設備に限ることとされたが、すでに条例で非常動力源として内燃機関を附置させているものも、今後、省令の非常電源にとりかえさせる必要があるか。また、条例による付加規制としての内燃機関の設置は認められないか。
答(要旨) 1 当該内燃機関が自家発電設備の基準に適合するものが設置されている場合は、消防法施行令第32条の規定を適用し、非常電源設備を省略してさしつかえない。なお、昭和44年消防予第65号の当該部分は、失効するものである。 2 前段は、前の答の1を参照されたい。後段は、認められない。
(昭和50年6月16日消防安第65号・各都道府県消防主管部長あての回答)
自家発電設備の基準に適合する内燃機関なら、非常電源の設備を省略してよいと答えています。
答えは、施行令第32条の規定を適用するとしています。この規定は、消防長又は消防署長が、防火対象物の位置、構造又は設備の状況から判断して、基準によらなくても
火災の発生又は延焼のおそれが著しく少なく、被害を最少限度に止められると認めるときに、基準を適用しないと定めています。条例による付加規制として内燃機関を設けることは、認められないと答えています。
なお、答えは、認められない理由については、述べていません。また、現行の規則第12条第1項第4号は、非常電源を、専用受電設備、自家発電設備、蓄電池設備又は燃料電池設備としています。内燃機関の直結ポンプを認めるかどうかは、個別に消防署長が判断します。
基準に合っていれば、直接動かすポンプでもいいんですね。
答えは、自家発電設備の基準に適合すれば省略できる、です。
認められない理由までは、述べていません。
延べ面積1,000平方メートル以上では、既存の建物でも専用受電設備は認められないのか
非常電源専用受電設備は、電力会社から受けた電気を、そのまま非常電源として使う設備です。発電機や蓄電池のような設備を別に持たないため、簡単ですが、停電したときの電気の元は、外からの電気に頼ります。そこで、規則第12条第1項第4号は、特定防火対象物で延べ面積が1,000平方メートル以上のものでは、専用受電設備を選べないようにしています。この決まりを、既存の建物にも当てはめるのかが、質疑で問われました。
問(要旨) 屋内消火栓設備及びスプリンクラー設備の場合、特定防火対象物のうち延べ面積が1,000平方メートル以上のものについては、既存の設備についても専用受電設備は認められないか。
答(要旨) お見込みのとおり。ただし、既存の防火対象物に対する基準の特例は、別途通知する予定である。
(昭和50年6月16日消防安第65号・各都道府県消防主管部長あての回答)
特定防火対象物で延べ面積1,000平方メートル以上なら、既存のものにも専用受電設備は認められないと答えています。
答えは、条文の線引きを、そのまま既存の設備にも当てはめました。ただし、別の通知で、
既存の防火対象物に対する基準の特例を示す予定とも答えています。
なお、現行の規則第12条第1項第4号は、対象から、規則第13条第1項第2号の小規模特定用途複合防火対象物を除いています。また、選べる非常電源には、燃料電池設備も加わっています。当時の答えは、その前のものです。
1,000平方メートルを超えたら、専用受電はだめなんですね。
答えは、既存のものにも認められない、です。
ただし、特例が別に予定されていました。
専用受電設備の変圧器の一次側の配線にも、耐熱保護は必要なのか
専用受電設備の配線は、規則第12条第1項第4号ホが、電線の耐熱と保護を定めています。ところが、質疑では、変圧器の二次側には耐熱電線の規制があるが、一次側にはないのではないか、という疑問が出されました。一次側の配線が建物の内部のダクトなどを通っていると、そこで火災が起きたとき、二次側の耐熱電線があっても意味がなくなるおそれがあります。そこで、一次側にも耐熱電線を使うよう、行政指導をしてよいかが問われました。
問(要旨) 非常電源専用受電設備は、主変圧器の2次側より耐熱電線で専用の開閉器を設けて供給するとされているが、主変圧器までの1次側の配線が屋内のダクト等を通って供給されている場合、2次側には耐熱電線の規制があるが、1次側にはない。したがって、ダクト火災等が発生した場合、2次側の耐熱電線の意味がなくなる。1次側にも耐熱電線の使用の行政指導をしてさしつかえないか。
答(要旨) 防火対象物の内部で第1支持点以降の配線は、変圧器の1次側であっても、消防法施行規則第12条第4号ニに規定する耐熱保護をしなければならない。
(昭和50年6月16日消防安第65号・各都道府県消防主管部長あての回答)
建物の内部の第1支持点以降は、変圧器の一次側でも耐熱保護をしなければならないと答えています。
答えは、行政指導にとどまらず、
規則の耐熱保護の規定を、そのまま一次側にも適用するとしています。なお、答えの「第12条第4号ニ」は当時の項目で、現行の規則第12条第1項第4号では、配線の規定はホにあたります。ホは、電線に600ボルト2種ビニル絶縁電線などの耐熱性のある電線を使い、耐火構造の主要構造部に埋設するなどの方法で保護することを定めています。
なお、答えは、第1支持点という言葉の定義までは、述べていません。
二次側だけ耐熱にしても、一次側が燃えたら意味がないですもんね。
答えは、建物の内部なら一次側にも耐熱保護が必要、です。
第1支持点の定義までは、述べていません。
表示灯の電源を、自動火災報知設備の受信機の予備電源から取ってよいのか
屋内消火栓には、加圧送水装置が動いたことを知らせる赤い表示灯があります。規則第12条第1項第2号は、この表示灯を赤色とし、屋内消火栓箱の内部かその直近に設けるよう定めています。ところが、昔は、この赤い灯を自動火災報知設備などと兼用にすることが多くありました。停電したときにも、点滅でポンプの起動を確認するには、この灯にも電気が要ります。そこで、兼用の灯の電気を、自動火災報知設備の受信機の予備電源から取ってよいかが、質疑で問われました。
問(要旨) 屋内消火栓設備の加圧送水装置の始動を明示する表示灯の規定が明確化された。従来は、自動火災報知設備、非常警報設備、消火栓を併用した赤色灯が一般的であったが、停電時においても点滅により、ポンプの起動を確認することが必要とすれば、併用設置の場合は、自動火災報知設備の受信機の予備電源容量にはこれらが含まれないため、消火栓から専用の配線方式としなければならないと思われる。既設のものは、消防法施行令第32条を適用してさしつかえないか。
答(要旨) 既設のものであっても、自動火災報知設備の受信機の予備電源から、屋内消火栓設備の表示灯の電源をとることは適当でない。
(昭和50年6月16日消防安第65号・各都道府県消防主管部長あての回答)
既設のものでも、受信機の予備電源から表示灯の電源を取るのは適当でないと答えています。
答えは、既設の設備にも、施行令第32条による特例を使わず、
専用の電源として分けることを求めた形です。理由は、受信機の予備電源の容量に、表示灯の分が含まれていないためです。
なお、答えは、専用の電源の具体的な取り方までは、述べていません。また、現行の規則第12条第1項第2号は、赤色の灯火の点滅で始動を表示できる場合には、表示灯を設けないことができるとしています。
予備電源の容量に、表示灯の分が入っていないんですね。
答えは、受信機の予備電源から取るのは適当でない、です。
専用の取り方までは、述べていません。
よくある質問
Q屋内消火栓設備の非常電源には、どんな種類がありますか?
A規則第12条第1項第4号は、非常電源専用受電設備、自家発電設備、蓄電池設備又は燃料電池設備と定めています。特定防火対象物で延べ面積が1,000平方メートル以上のものは、専用受電設備を除きます。
Q既存の学校の屋内消火栓設備にも、非常電源は要りますか?
A質疑の答えは、特定防火対象物以外の既存の建物には、非常電源の基準は遡って適用されないとしています。ただし、増築や改築の場合の扱いは別です。所轄の消防署に確かめてください。
Q表示灯の電源は、自動火災報知設備の受信機から取ってよいですか?
A質疑の答えは、受信機の予備電源から取ることは適当でないとしています。個別の設備の扱いは、所轄の消防署に確かめてください。
Q質疑の回答は、今もそのまま使えますか?
A質疑の回答は昭和50年のものです。その後の改正で変わっている条文や運用があります。項目の記号も当時のものです。現行の令、規則、告示と、所轄の消防署の運用に確かめてください。
まとめ
✔既存の建物に非常電源の基準が遡るのは、特定防火対象物だけとされた
✔内燃機関の直結ポンプは、自家発電設備の基準に適合すれば非常電源の設備を省略できるとされた
✔延べ面積1,000平方メートル以上の特定防火対象物は、既存のものでも専用受電設備は認められないとされた
✔変圧器の一次側の配線も、建物の内部では耐熱保護をするとされた
✔表示灯の電源は、受信機の予備電源から取るのは適当でないとされた
✔質疑は昭和50年のもの。現行の条文と運用は、その後の改正で変わっている場合がある
✔自分の建物の設備の扱いは、所轄の消防署に確かめる
非常電源は、建物の種類や規模で扱いが違うんですね。
まずは、うちの屋内消火栓の非常電源がどの種類か見てみます!
進める前に、所轄の消防署へ確かめておくのが安心です。
㈱防災屋でもご相談を承っております。
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この記事を書いた人
㈱防災屋Web編集部
元消防士、行政書士、高専卒など
防火管理者には「セルフ選任」と「プロ代行」の2択があることをもっと多くの方々に知ってもらい、世の中の防火管理レベルをもっと上げていきたい。
0にはできない火災リスクとの向き合い方を伝え、救える命を増やし、悲しみの総量を減らしたい。
後悔してからでは遅すぎる火災予防に、Webの力で取り組む㈱防災屋の編集部です。
監修・編集者
青木 俊輔
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
学歴
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
保有資格
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
主な活動
参考・出典
- 消防法第17条の2の5、消防法施行令第32条、第34条の4
- 消防法施行規則第12条第1項第2号、第4号
- 消防庁の通知・回答(昭和50年6月16日消防安第65号)
※本記事は公表されている法令および通知に基づく一般的な解説です。掲載した回答は発出当時のもので、条番号や言葉づかい、単位等は当時のものです。その後の改正により運用が変わっている場合があります。個別の事案についての適用は、所轄の消防署にご確認ください。