危険物の施設には、昔の条例で許可を受けた古いものもあれば、持ち主どうしが裁判で争っているものもあります。
事故で急に止めなければならないことも、経営が行き詰まって持ち主が分からなくなることもあります。
そのとき消防は、どこまで命令や措置を求められるのでしょうか。
消防の実務書には、この範囲を確かめた質疑応答が並んでいます。
この記事では、その中から5問を取り上げ、現行の条文に照らして読みます。命令や措置がどこまで及ぶかを、順に確かめます。
昔から使っている施設は、今の基準に合っていなくても、そのまま使えるんじゃないですか。
いいえ。
昔の許可を受けていても、消防の命令は及びます。
裁判で争っている最中でも、ですか。
一つずつ確かめます。
現行の条文に当たれるところは、当たって読みます。
- 昔の条例で許可を受けた施設でも、基準に合わない構造なら、第12条と第12条の2の命令が及び、ただし慎重かつ適切にと答えています
- 昭和34年の改正法の経過規定は手続をみなすだけで、第12条は施行の前後を問わずすべての施設に適用されると答えています
- 民事の裁判で現状維持の仮処分が出ていても、改造の命令は法律上可能で、公益と私益の権衡を考えて慎重にと答えています
- 緊急使用停止命令の効果は、タンクに危険物が入っている限り使用状態と見て、危険物の除去まで含むと答えています
- 経営不能で閉鎖され設置者が分からない給油取扱所は、関係者に占有者としてふさわしい者を選ばせ、用途廃止等の措置を講じさせるのが適切と答えています
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目次
危険物施設への命令は、どの条文で決まっているのか
消防法第12条第1項は、製造所、貯蔵所又は取扱所の所有者、管理者又は占有者に、位置、構造及び設備が技術上の基準に適合するよう維持する義務を課しています。第2項は、適合していないと認めるとき、市町村長等が、権原を有する者に対し、修理し、改造し、又は移転すべきことを命ずることができると定めています。
第12条の2第1項は、この命令に違反したときなどに、許可の取消し、又は期間を定めた使用の停止を命ずることができるとしています。
第12条の3第1項は、公共の安全の維持又は災害の発生の防止のため緊急の必要があるとき、使用を一時停止すべきことを命じ、又はその使用を制限できるとしています。
施設の用途をやめたときの届出は、第12条の6が定めています。以下の5問は、これらの条文がどこまで及ぶかを確かめた質疑です。
昔の条例で許可を受けた施設にも、今の基準への命令は及ぶのか

(消防庁の危険物規制に関する質疑応答)(昭和35年2月3日・国消乙予発第6号)
現行の第12条第2項は、基準に適合していないと認めるときに、修理、改造、移転を命ずることができると定めています。第12条の2第1項第3号は、その命令に違反したときに、許可の取消しや使用の停止を命ずることができると定めています。
照会は「事実上、許可を取り消したのと同じ結果になる」と心配していましたが、回答は適用を否定しませんでした。その代わり、施設の危険性を考えて、慎重かつ適切に当たるよう求めています。
質疑にある政令附則や消防法附則の条番号は、当時のものです。
昔の許可があっても、直せないなら使えなくなることがあるんですね。
はい。
ただし、危険性を考えて慎重に当たるとされています。
経過規定があれば、基準への適合は求められないのか

(消防庁の危険物規制に関する質疑応答)(昭和37年4月6日・自消丙予発第44号)
現行の第12条第1項は、所有者、管理者又は占有者に、位置、構造及び設備が技術上の基準に適合するよう維持する義務を課しています。回答は、この規定が施行の前後を問わずすべての製造所等に適用されると整理しました。
照会の2つ目は、政令附則が改正法の経過規定に抵触して無効ではないかという疑問でした。回答は、政令附則の効力そのものには触れていません。示したのは、第12条は全施設に適用されるという一点です。
許可済みとみなされることと、基準に合わせることは別の話なんですね。
はい。
みなされるのは手続です。
裁判で争っている最中の施設にも、改造の命令は出せるのか

(消防庁の危険物規制に関する質疑応答)(昭和37年12月24日・自消丙予発第144号)
理由は、仮処分が私人どうしの権利を守るためのもので、行政庁が公益のために行う処分を禁じる力はない、という点です。
現行の第12条第2項の改造命令に当たるので、根拠も同じです。使用の停止のほうは、第12条の2第1項第3号のとおり、命令に違反したときに命ずるものです。順序は、改造の命令が先になります。
ただし回答は、係争の内容を検討し、公益と私益の権衡を考えて慎重に措置するよう求めています。
民事の裁判が続いていても、消防の命令は止まらないんですね。
はい。
ただし、公益と私益の釣り合いを考えて慎重に進めます。
緊急使用停止命令は、タンクの中の危険物を出すことまで含むのか

市は、第12条の3に基づいて、そのタンクに緊急使用停止命令を出しました。
(消防庁の危険物規制に関する質疑応答)(昭和56年7月23日・消防危第92号)
現行の第12条の3第1項は、公共の安全の維持又は災害の発生の防止のため緊急の必要があると認めるとき、所有者、管理者又は占有者に、使用を一時停止すべきことを命じ、又は使用を制限できると定めています。
回答は短く、理由は付いていません。問の(2)の言い方を借りれば、危険物が残っている間はタンクは使用状態にあり、その停止には貯蔵中の危険物の除去も入る、という見方です。
問の(3)にある第16条の3第3項の応急措置命令は、危険物の流出その他の事故が発生した場合に、応急の措置を講じていないと認めるときの命令です。この点について、回答は触れていません。
第12条の3の命令に違反した者は、第42条第1項第5号により、6月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処せられます。命令の公示や解除の要件は、別の記事で整理しています。
停止といっても、中の危険物まで出すことになるんですね。
はい。
入っている間は使用状態と見る回答です。
経営が行き詰まり設置者が分からない給油取扱所は、誰に措置をとらせるのか

閉鎖後に、計量機の所有者が無許可で機械を取りはずすこともありました。
(消防庁の危険物規制に関する質疑応答)(昭和51年2月21日・消防危第117号)
現行の第12条の6は、施設の用途を廃止したとき、所有者、管理者又は占有者が遅滞なく届け出ることを求めています。第12条第2項の命令の相手も、所有者、管理者又は占有者のうち、権原を有する者です。所有者が分からなくても、占有者を立てれば、届出や命令の相手ができます。
照会は五つの項目を挙げていましたが、回答文が示したのは、この一点です。休止中の地下タンクの残量、計量機を取りはずした者への罰則、差押えによる譲渡の扱いには、回答は個別に触れていません。
持ち主がいなくなっても、手続きの相手を作る方法があるんですね。
はい。
関係者から占有者を選ばせて、その者に措置をとらせます。
よくある質問
まとめ
昔からある施設にも、争いの最中の施設にも、命令は及ぶんですね。
うちの施設が基準に合っているか、確かめてみます!
命令を受ける前に、施設の状況を確かめておくのが安心です。
㈱防災屋でもご相談を承っております。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 消防法第12条・第12条の2・第12条の3・第12条の6・第42条
- 消防庁の危険物規制に関する質疑応答(予防行政の通知)
※本記事は公表されている法令および通知に基づく一般的な解説です。掲載した回答は発出当時のもので、条番号や言葉づかい等は当時のものです。その後の改正により運用が変わっている場合があります。個別の事案についての適用は、所轄消防署にご確認ください。





