ビルの屋上には、階段やエレベーターの機械室が入った小さな塔屋(ペントハウス)がよくあります。地下に小さな機械室だけを設けた建物もあります。
こうした部分は、面積が小さければ建物の階数に数えない扱いになります。では、その階にも発信機や屋内消火栓を付ける必要があるのでしょうか。
堺市消防局の審査基準は、階数に算入されない階を「b階、PH階」と呼び、発信機・非常放送の起動装置・屋内消火栓について、上か下の階の設備で足りれば設置しないことができる項目を置いています。非常ベルと補助散水栓は、その項目を準用で借りています。
この記事では、国の基準と堺市の運用を分けて読み、どの項目がどの項目を借りているのかを順にたどります。大阪市と東大阪市の基準とも比べます。
堺市で7階建ての事務所ビルを計画しています。
屋上の塔屋にも発信機を付けるよう図面に描かれていました。
堺市の審査基準には、階数に算入されない階の発信機の特例があります。
まず国の基準から確かめましょう。
塔屋には機械しかありません。
消火栓も要るのでしょうか?
屋内消火栓にも上か下の階のホースが届けば設置しない項目があります。
設備ごとに条件が違うので、順に見ていきます。
- 塔屋や地下の機械室などは、建築基準法施行令第2条第1項第8号で、水平投影面積が建築面積の8分の1以下なら階数に算入しないとされています
- 国の発信機と屋内消火栓の基準は、「階ごと」に距離を決めているので、堺市は階数に入らない階でも令第32条などを当てて扱いを定めています
- 堺市は、b階・PH階の発信機と非常放送の起動装置は、上か下の階の1つまで歩行距離50メートル以下なら設置しないことができるとしています
- 屋内消火栓は上か下の階の消火栓のホースで有効に放水できる範囲に限られ、非常ベルの起動装置と補助散水栓はこれらの項目を準用しています
- 大阪市と東大阪市の公開されている基準には、階数に算入されない階を名指しした項目は見当たりませんでした
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目次
階数に算入されない「b階・PH階」とはどんな階か

堺市の審査基準は、階数の数え方を次のように定めています。
ここで大事なのは、階数に数えないことと、その部分が「階」でなくなることは別だという点です。消防用設備等の国の基準は、発信機や屋内消火栓の位置を「階ごと」に決めています。
堺市の審査基準は、b階・PH階の項目で「政令第32条(又は条例第72条)の規定を適用し」設置しないことができる、と書いています。特例を当てると書いているのは、何もしなければ、階数に入らない階にも「階ごと」の基準がかかるという読み方に立っているからだと読めます。
条文のつながりを順に並べると、次のとおりです。
- 建築基準法施行令第2条第1項第8号が、塔屋や地階の機械室など(建築面積の8分の1以下)を階数に算入しないとする
- 消防法施行規則第24条第8号の2イなどは、発信機や屋内消火栓を「各階ごと」「階ごと」に、距離で決めている
- 階数に入らない階も「階」なので、そのままではその階の中に設備が必要になる
- 堺市は、消防法施行令第32条(項目によっては堺市火災予防条例第72条も)を適用して、上か下の階の設備で足りる場合に設置しないことができるとする
階数に入らない塔屋でも、消防の基準では一つの階として見るのですね。
はい、そのうえで堺市は特例で手当てしています。
次に発信機の条件を見ましょう。
堺市で塔屋の階に発信機はいらないのか

たとえばPH階なら、塔屋の中のいちばん遠い場所から、階段を下りて最上階の発信機に着くまでの歩行距離が50メートル以下かを確かめます。b階なら、階段を上がってすぐ上の階の発信機までを測ります。
根拠には、消防法施行令第32条と並んで堺市火災予防条例第72条(基準の特例)が挙がっています。条例の側の条文の中身は、この記事では扱いません。
末尾の★は、堺市の凡例で次のように定義されています。
塔屋の中ではなく、階段を下りた先の発信機で数えるのですね。
はい、上か下の階の1つまで50メートル以下が条件です。
図面で歩行経路を引いておきましょう。
非常放送や非常ベルの押しボタンも同じ扱いなのか

なお、放送設備が自動火災報知設備と連動している場合は、起動装置を省略することができる。
では非常ベルや自動式サイレンはどうか。同じ節の2に、次の文があります。
(イ) メゾネット型共同住宅等における起動装置の設置場所については、第12 自動火災報知設備Ⅱ.11.(2)の「発信機」を「起動装置」に読み替えて準用すること。
準用のつながりを順にたどると、次のとおりです。
- 国の施行規則第25条の2第2項第2号の2イが、非常警報設備の起動装置を各階ごとに歩行距離50メートル以下で設けるとする
- 堺市の第16 Ⅱ 1(5)ア(ア)は、放送設備の非常用押しボタンの設置場所をa〜cで定め、cでb階・PH階の特例を置く
- 第16 Ⅱ 2(3)ア(ア)が、非常ベル・自動式サイレンの起動装置の設置場所について「前1.(5).ア.(ア)を準用」とする
- 準用でcも一緒に借りるので、非常ベル・自動式サイレンの起動装置も、上か下の階の1つまで歩行距離50メートル以下なら設置しないことができると読める
放送設備の区域の分け方は、堺市の非常放送の区域の記事で解説しています。
非常ベルには、b階・PH階の文が直接は書かれていないのですね。
はい、放送設備の(ア)を準用してcを借りています。
準用先まで読むのが堺市の基準のコツです。
屋内消火栓や補助散水栓はホースが届く範囲で決まるのか

すぐ前のウには、よく似た項目があります。
スプリンクラー設備の補助散水栓は、このオを借りています。
- 国の施行規則第13条の6第4項第1号が、補助散水栓を階ごとに水平距離15メートル以下で設けるとする
- 堺市の第4 Ⅱ 1(5)ケが、b階・PH階について「第2 屋内消火栓設備Ⅱ.7.(2).オを準用」とする
- 借りる先のオは、上階又は下階の屋内消火栓のホースを延ばし、ノズルからの放水距離以内で有効に放水できる範囲に限って設置しないことができるとする
- 補助散水栓に当てはめると、上か下の階の補助散水栓のホースで有効に放水できる範囲に限って、その階に補助散水栓を設置しないことができると読める
押しボタンは歩行距離、消火栓はホースの届く範囲で見るのですね。
はい、設備ごとに測り方が違います。
図面には歩行経路と放水範囲の両方を描きましょう。
大阪市や東大阪市と比べると何が違うのか

大阪市の屋内消火栓の特例基準には、堺市のウとほぼ同じ文があります。
大阪市の自動火災報知設備の特例基準の9と、東大阪市の自動火災報知設備の運用基準の特例基準9(4)には、メゾネット型の住戸の発信機の項目がありますが、塔屋や地下の機械室の階を扱う項目ではありません。
東大阪市の公開資料(6つのPDF)には、屋内消火栓設備・非常警報設備・スプリンクラー設備の運用基準が含まれていないため、表では「公開資料にない」としています。
比べると次のとおりです。
| 項目 | 堺市 | 大阪市 | 東大阪市 |
|---|---|---|---|
| b階・PH階の発信機 | 第12 Ⅱ 11(6)★(上か下の階まで歩行距離50メートル以下) | 名指しの項目は見当たらない | 名指しの項目は見当たらない |
| b階・PH階の非常放送の起動装置 | 第16 Ⅱ 1(5)ア(ア)c★(同じく50メートル) | 名指しの項目は見当たらない | 公開資料にない |
| b階・PH階の非常ベルの起動装置 | 第16 Ⅱ 2(3)ア(ア)で1(5)ア(ア)を準用 | 名指しの項目は見当たらない | 公開資料にない |
| b階・PH階の屋内消火栓 | 第2 Ⅱ 7(2)オ★(上か下の階のホースで有効に放水できる範囲) | 名指しの項目は見当たらない | 公開資料にない |
| b階・PH階の補助散水栓 | 第4 Ⅱ 1(5)ケ★でオを準用 | 名指しの項目は見当たらない | 公開資料にない |
| 機械室などだけの耐火構造の階の屋内消火栓 | 第2 Ⅱ 7(2)ウ★ | 第12 特例基準 6 | 公開資料にない |
| 根拠として書かれている条文 | 政令第32条又は条例第72条(放送設備のcは政令第32条だけ) | 令第32条又は条例第47条(屋内消火栓の第12) | ― |
堺市で塔屋や地下の機械室の階の設備を外す計画なら、次の点を確かめます。
- その階が、建築基準法施行令第2条第1項第8号で階数に算入されない階にあたるか(迷うときは建築主事等に確認)
- 外したい設備が、発信機・非常放送の起動装置・非常ベルの起動装置・屋内消火栓・補助散水栓のどれか
- 押しボタンなら、その階の各部分から上か下の階の1つまで歩行距離50メートル以下か
- 消火栓なら、上か下の階のホースを延ばしてノズルから有効に放水できる範囲に、その階の全体が入るか
- 使う項目(11(6)・1(5)ア(ア)c・7(2)オなど)を図面に書き添え、所轄の消防署と事前に協議したか
同じ大阪府内でも、塔屋の階の扱いを書いているのは堺市だけなのですね。
はい、公開資料で名指ししているのは堺市です。
建物のある市の基準で確かめましょう。
よくある質問
まとめ
まず塔屋が階数に算入されない階かを確かめます。
使う項目と歩行経路も図面に書き添えます!
堺市では、準用の先まで読んでから設備ごとの条件を当てるのが要点です。
㈱防災屋でもご相談を承っております。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 堺市消防局「堺市消防同意・消防用設備等審査基準」総則 4 凡例、第4 床面積、階及び高さの取扱い 2(1)、第2 屋内消火栓設備 Ⅱ 細目 7(2)ウ・オ、第4 スプリンクラー設備 Ⅱ 細目 1(5)ケ、第12 自動火災報知設備 Ⅱ 細目 11 特例適用基準 (2)・(6)、第16 非常警報設備 Ⅱ 細目 1(5)・2(3)ア https://www.city.sakai.lg.jp/kurashi/bosai/shobo/shokai/reiki/kijyun/index.html
- 大阪市消防局「消防用設備等の設置に係る運用基準」第1章 第2節 屋内消火栓設備 第12 特例基準(柱書・6)、第2章 第1節 自動火災報知設備 第12 特例基準 9 https://www.city.osaka.lg.jp/shobo/page/0000350878.html
- 東大阪市消防局「自動火災報知設備の設置に係る運用基準」Ⅱ 細目 9 特例基準 (4) https://www.city.higashiosaka.lg.jp/0000041303.html
- 建築基準法施行令 第2条第1項第8号/消防法施行令 第11条第3項第1号イ・第2号イ、第32条/消防法施行規則 第13条の6第4項第1号、第24条第8号の2イ、第25条の2第2項第2号の2イ(e-Gov法令検索)
※本記事は公表されている法令および堺市・大阪市・東大阪市の公開資料に基づく一般的な解説です。運用基準や審査基準は改正されることがあるため、最新の内容は管轄の消防署・消防局で確認してください。各資料は2026年10月時点の公開版で確認しています。個々の建物で発信機や屋内消火栓などを設置しないことができるかは、令第32条などの適用について設計の段階で所轄の消防署にご確認ください。





