高さ31メートルを超えるビルには、建築基準法で非常用エレベーターを設けることになっています。消防隊が上の階へ上がるためのエレベーターで、前に乗降ロビーを設けます。
堺市消防局の審査基準は、高層ビルの指導指針の中で、この非常用エレベーターの1基以上を屋上へ着床させるよう指導しています。ただし、その例外の範囲は、ヘリコプターの緊急離着陸場等を決めた別の基準を見ないと分かりません。
この記事では、国の法令が決めていることと堺市の指導指針が上乗せしていることを分けて、借りている基準を番号つきの手順でたどります。乗降ロビーの広さや扉の指導も、国の条文と並べて確かめます。
堺市で高さ50メートルほどのオフィスビルを計画しています。
非常用エレベーターは屋上まで行かせる必要がありますか?
堺市の指針は1基以上を屋上へ着床させるよう指導しています。
ただし例外もあります。
例外はどこを見れば分かりますか?
緊急離着陸場等の設置指導基準です。
順にたどっていきましょう。
- 国の建築基準法は、高さ31メートルを超える建築物に非常用の昇降機を求め、施行令が乗降ロビーの構造や床面積(1基につき10平方メートル以上)を決めています
- 堺市の高層建築物に係る指導指針は、屋上を消防活動の拠点に使えるよう、非常用エレベーターの1基以上を屋上へ着床させるよう指導しています(★)
- ただし、緊急離着陸場等の設置指導基準で屋上に緊急離着陸場等を要さない場合や、階段等で消防活動と避難が有効に行える場合は除かれます
- その基準は、軒高45メートルを超え非常用エレベーターを要する建築物、高度医療施設などに緊急離着陸場等を設けるとしています
- 乗降ロビーは、避難経路にしない・正方形に近い形・外開きの扉・避難階にも設ける・案内板などが堺市の上乗せです。大阪市・東大阪市の公開資料に同じ項目は見当たらず、最新の内容は管轄の消防署・消防局で確認します
▼

目次
国の法令は非常用エレベーターと乗降ロビーに何を求めているのか

(略)
3 乗降ロビーは、次に定める構造としなければならない。
一 各階(屋内と連絡する乗降ロビーを設けることが構造上著しく困難である階で次のイからホまでのいずれかに該当するもの及び避難階を除く。)において屋内と連絡すること。
(略)
三 出入口(特別避難階段の階段室に通ずる出入口及び昇降路の出入口を除く。)には、第百二十三条第一項第六号に規定する構造の特定防火設備を設けること。
(略)
七 床面積は、非常用エレベーター一基について十平方メートル以上とすること。
(略)
九 乗降ロビーには、見やすい方法で、積載量及び最大定員のほか、非常用エレベーターである旨、避難階における避難経路その他避難上必要な事項を明示した標識を掲示し、かつ、非常の用に供している場合においてその旨を明示することができる表示灯その他これに類するものを設けること。
- 高さ31メートルを超える建築物には、非常用の昇降機(非常用エレベーター)を設ける(建築基準法第34条第2項)
- 2基以上設けるときは、避難上・消火上有効な間隔を保って配置する(施行令第129条の13の3第2項)
- 乗降ロビーの床面積は、1基につき10平方メートル以上(同条第3項第7号)
- 乗降ロビーを屋内と連絡させる階から、避難階は除かれている(同条第3項第1号)
国の法令には、屋上まで行かせる決まりはないのですね。
はい、屋上着床は堺市の指導です。
次は堺市の指針の対象を見ます。
堺市の高層建築物に係る指導指針はどの建物が対象か

(2) ◆ : 指導基準のうち、消防庁の通知等を参考に定めたもの
(3) ★ : 指導基準のうち、堺市消防局として防火安全性の向上を図ることを目的として定めたもの
第2章 第2節には用途や形態ごとの指導指針が並び、その「第3」が高層建築物です。対象は次のとおりです。
同じ7項の(3)非常用の進入口は堺市の進入口の記事で、9項の放水口は堺市の7階と9階の放水口の記事で解説しています。
★の項目は、義務ではないのですね。
はい、堺市消防局の指導基準です。
次は屋上着床の中身です。
堺市は非常用エレベーターを屋上まで着床させるよう求めるのか

- 指針の7(2)イ(ア)本文が、1基以上を屋上へ着床できるようにするよう指導する
- 同じただし書が、緊急離着陸場等の設置指導基準で屋上に緊急離着陸場等を要さない場合を除く
- その基準の第3条が、緊急離着陸場等を設ける建築物を決めている(次の引用)
- 同じ基準の第10条(1)も、非常用エレベーターを設けるときは1基以上を屋上に着床できる構造とする
- さらにただし書の後半で、階段等により消防活動と避難が有効に行えるものも除かれる
(1) 軒高45 メートルを超え100 メートル以下の建築物のうち、非常用エレベーターの設置を要する建築物
(2) 軒高100 メートルを超える建築物のうち、非常用エレベーターの設置を要する建築物
(3) 高度医療施設
(4) 消防局長(以下「局長」という。)が消防活動上、特に必要と認める建築物
同じ基準は、非常用エレベーターについても次のように決めています。
(1) 非常用エレベーターは、1 基以上が屋上に着床できる構造とする。ただし、有効に消防活動及び避難が行える場合はこの限りでない。
(2) 高度医療施設の非常用エレベーターは、担架等を収容できる大きさを確保するとともに、着陸帯から直接又はスロープを利用して担架等が乗り込める構造とする。
ただし、指針は「高さ」、緊急離着陸場等の基準は「軒高」で書かれています。どちらの基準にも消防局長が判断する余地(第3条(4)・第12条の特例)があるので、計画の段階で堺市消防局に確認しておくと安心です。
屋上着床の指導は、ヘリコプターの基準と組になっているのですね。
はい、屋上を消防活動の拠点にするためです。
次は乗降ロビーの指導を見ます。
堺市は乗降ロビーの広さや扉に何を上乗せしているのか

(ウ) 乗降ロビーは、消防活動に支障のない広さ(エレベーター1基につき 10 ㎡以上とする。)とすること。
(エ) 乗降ロビーの形態は、出来るだけ正方形に近い形で消防活動上有効なものであること。★
(オ) 特別避難階段の附室を兼ねない乗降ロビーの扉は、外開きとすること。★
(カ) 乗降ロビーは、避難階にも設けることとし、廊下及び特別避難階段以外の部分に直接通じないこと。★
(キ) 乗降ロビーには、当該階の案内板(消火活動上必要な施設等の位置を示したもの)を設けること。★
(ク) 耐震性を十分考慮すること。
| 項目 | 国(施行令第129条の13の3) | 堺市の指針(7(2)イ) |
|---|---|---|
| 広さ | 1基につき10平方メートル以上(第3項第7号) | 同じ((ウ)・無印) |
| 避難経路 | 定めなし | 避難経路にしない。特別避難階段の附室と共用するときは除く((イ)★) |
| 形 | 定めなし | できるだけ正方形に近い形((エ)★) |
| 扉 | 出入口に特定防火設備(第3項第3号) | 附室を兼ねない乗降ロビーの扉は外開き((オ)★) |
| 避難階 | 屋内と連絡させる階から避難階を除く(第3項第1号) | 避難階にも設ける。廊下と特別避難階段以外に直接通じない((カ)★) |
| 掲示 | 積載量・最大定員・非常用エレベーターである旨・避難経路などの標識(第3項第9号) | その階の案内板(消火活動上必要な施設等の位置)((キ)★) |
扉を外開きにするのは、どういう理由ですか?
指針に理由は書かれていません。
附室を兼ねない扉に限る点に注意しましょう。
堺市は非常用エレベーターの位置や昇降路にも何を求めているのか

(ア) 消防車両が寄りつくことができる防火対象物の出入口に近い位置で、かつ、防災センター(総合操作盤その他これに類する設備により、防火対象物の消防用設備等又は特殊消防用設備等その他これらに類する防災のための設備を管理する場所をいう。以下この節において同じ。)からも容易に到達できる位置に設置すること。★
(イ) 2基以上設ける場合には、避難上及び消火上有効な間隔を保って配置しなければならないこと。
また、一方に偏在することなく、防火対象物の各部分から平均して到達できる位置とすること。★
ウ その他
非常用エレベーターの昇降路内には、消火水等が容易に入らない構造とすること。また、ピット部分には排水口を設けること。★
大阪市消防局と東大阪市消防局の公開されている運用基準も確かめました。非常用エレベーターの乗降ロビーは、連結送水管の放水口や非常コンセントを置く場所として出てきますが、屋上着床や乗降ロビーの形・扉・案内板を指導する項目は見当たりません。
堺市で高層ビルを計画するときは、次の順に確かめると抜けが出ません。
- 高さ31メートル超または11階以上で、指針の対象になるか(共同住宅も7項は対象)
- 軒高と用途から、緊急離着陸場等の設置指導基準の第3条に当たるか
- 当たるなら、非常用エレベーターの1基以上を屋上へ着床できるか
- 乗降ロビーの形・扉の開き方・避難階のロビー・案内板を図面に入れたか
- 出入口と防災センターからの位置、昇降路への水の入り込みとピットの排水口を確かめたか
大阪市や東大阪市の資料には、同じ項目がないのですね。
はい、堺市の公開資料ならではの指導です。
設計の段階で消防局に相談しましょう。
よくある質問
まとめ
まず軒高と緊急離着陸場等の要否を確かめます。
そのうえで消防局に相談します!
堺市は乗降ロビーの形や扉も要点です。
㈱防災屋でもご相談を承っております。
㈱防災屋 代表取締役/消防設備士
平成元年生まれ、三重県鈴鹿市出身。祖父が創業した消防設備業者で10年間勤務した後、独立・起業。現在は青木マーケ㈱、㈱防災屋、(一社)予防団の運営に携わる。Amazonベストセラー1位『改訂版 消防設備士0類』著者。月刊誌「電気と工事(オーム社)」でコラム連載中!
本記事の消防法令、消防用設備等の技術情報および記述内容を監修・編集しています。
詳しい経歴・保有資格を見る
- 鈴鹿工業高等専門学校 材料工学科 卒
- 静岡大学工学部物質工学科 材料科学コース 卒
- 静岡大学大学院工学研究科物質工学専攻 修了
- 消防設備士:甲種特類、甲種1~5類、乙種6・7類
- 危険物取扱者:甲種、乙種1~6類、丙種
- 防火対象物点検資格者/防災管理点検資格者/甲種防火管理者
- 第二種電気工事士/工事担任者(総合通信)/第三種電気主任技術者
- 自家用発電設備専門技術者/特種電気工事資格者/職長・安全衛生責任者
- eco検定/民泊適正管理主任者/フォークリフト運転技能講習 修了
趣味:ギター、バスケットボール(全国高専大会優勝・キャプテン)
参考・出典
- 堺市消防局「堺市消防同意・消防用設備等審査基準」第1章 総則 2 運用上の留意事項・4 凡例/第2章 第2節 第3 高層建築物に係る指導指針 2 適用範囲・7(2)非常用エレベーター ア〜ウ https://www.city.sakai.lg.jp/kurashi/bosai/shobo/shokai/reiki/kijyun/index.html
- 堺市消防局「堺市開発行為等における緊急離着陸場等の設置指導基準」第1条・第2条・第3条・第10条・第12条 https://www.city.sakai.lg.jp/kurashi/bosai/shobo/shokai/reiki/kaihatsushido.files/kinnkyuurityakurikujyou.pdf
- 大阪市消防局「消防用設備等の設置に係る運用基準」(公開資料に同じ項目なし) https://www.city.osaka.lg.jp/shobo/page/0000350878.html
- 東大阪市消防局 消防用設備等の運用基準(公開資料に同じ項目なし) https://www.city.higashiosaka.lg.jp/0000041303.html
- 建築基準法(昭和25年法律第201号)第34条第2項(e-Gov法令検索)
- 建築基準法施行令(昭和25年政令第338号)第129条の13の2・第129条の13の3(e-Gov法令検索)
※本記事は公表されている法令および堺市・大阪市・東大阪市の公開資料に基づく一般的な解説です。運用基準や審査基準は改正されることがあるため、最新の内容は管轄の消防署・消防局で確認してください。各資料は2026年10月時点の公開版で確認しています。





